1曲目 "もう1人の私"の唄

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……… … 「…よしっ」  彩芽と教室に戻ってきて帰り支度を済ませる。窓際の席になれたのはラッキーだ。  なんとなく窓の外を見ると、校門脇に生えている桜の木が春風にサラサラと揺れていた。  そういえば彩芽と初めてちゃんとお話したのも、こんな風に春風の吹く日だったな。 「……」  今年も彩芽とは同じクラス。彼女と同じ高校に通えるように、勉強を頑張ったかいがあるものだ。  私は彩芽を大の親友だと思っている。だから一緒にいられるのは嬉しい。  私は…彩芽と一緒にいられればそれで…。  ブーッ!ブーーッ! 「っ!」  桜を見ながら思い出に浸っていると、バイブレーションが響く。ポケットの中の存在が一気に現実に引き戻してきた。  チラッとポケットから取り出して画面を見ると、桜蘭がまたなにかを叫んでいるようだった。 「…うるさいなぁ」  スマホを軽くポンッと叩く。バイブレーションが鳴り止んだ。 「蘭織、スマホまだ壊れてるの?」 「わっ!…う、うん。そうみたい」  スマホを鞄にしまい終えた瞬間、彩芽に声をかけられた。近くに来てるのに気が付かなかった。また少し声が上擦る。 「直しにいく?」 「あー、いや、いいよ」 「え、でも──」 「ねー!蘭織!」  心配する彩芽の声を遮るように、私の名を呼ぶ声が投げかけられた。 「放課後、暇ー?」 「クラス新しくなってぼちぼちだし、遊び行こうってなってるんだけど!」 「てか今日の蘭織、先生に怒られすぎでしょ」 「ね、なにしてんのよ」  声の方へ振り向くと、教室の扉近くに数人の男女グループ。明るく気さくな男女が集まっている様子。昨年度同じクラスだった子もその中に見受けられる。  4月初めのまだ慣れていない雰囲気が解け始めてきた頃。少しずつグループができているようだ。 「…えー、なにすんの?…ほら、彩芽」 「え…あっ」  私は彩芽の手を取ってグループに近づいた。  声は私にかけられたもののようだが、今日は彩芽と一緒に帰る約束だ。それなら彩芽が一緒でもいいだろう。  戸惑う彩芽を引っ張って、彼女達の輪に入る。 「うん、これからカラオケ行こうかなって!」  近づくやいなや、一人の子がそう言った。 「え、あー…カラオケ?」  その言葉で私に動揺の波が走る。 「三倉さんもどう?」 「あ…えっと…私は…」  連れてこられた彩芽は明らかに困惑していた。  昔からの付き合いだが、彩芽は少し奥手なところがある。物静かで大人っぽい。  自分で言うのもなんだが私は真逆。私が手を引っ張って巻き込んでいくのもしょっちゅうだ。 「……」  目が泳いでしまっている彩芽を見る。  だが今回は奥手なのとは別だ。長いこと一緒にいるから、なんとなくわかる。 「…ごめん、みんな!今日は彩芽、私とデートだから!」  私は彩芽の肩を抱きながら少しその輪から遠ざかった。 「…ぁ」 「えー、なにそれ!」 「あははっ、ごめんねぇ。というわけでお先!」 「おっけー、また今度ね!」 「バイバイ、蘭織、三倉さん!」 「うん、じゃね〜」 「あ、誘ってくれてありがと。えと…ばいばい」  困惑したまま別れの挨拶をする彩芽を連れて、私は教室を出た。
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