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………
…
「……はぁ…はぁ」
しかし私は今、VOISYSをインストールしたことを初めて後悔していた。
『ねぇもう学校終わったでしょ!?早く帰ろう!そして歌わせろー!』
私のスマートフォンからキンキン声。誰もいない放課後の女子トイレに機械音声が響き渡る。
今日の授業が終わった瞬間、誰にも見つからないよう全力疾走でトイレまでやってきた。そのせいで若干酸欠になった頭に、こいつの金切り声は少し痛い。
『ほら、早く帰るぞー!ほらぁ!』
「うるさいっ!」
私は今日一日の溜まった鬱憤を晴らすかのようにスマートフォンを叱責する。
傍から見ればなんと滑稽な姿なことだろうか。でもこれくらい、今日のことを思えばなんとも思わない。
今日一日は本当に災難だったのだ。それもこれも全部…
「あんた…私のスマホの中で好き放題なにしてくれてんのよ!」
私のスマホの中に現れた桜蘭のせいだった。
『あんた、じゃなくて桜蘭ですー』
画面の中で桃色髪の彼女がおちょくるように舌を出す。
今朝パソコンに突然現れた桜蘭は、今度は私のスマートフォンの中でふよふよと泳ぐように漂っている。
「あんたほんとどうやって…」
『む、えいっ』
「ちょっ、あんたやめ…」
『…えいえいっ』
私の言葉に彼女は頬を膨らまして、画面内のメッセージアプリやメールアプリのアイコンを掴んで放り投げ始めた。画面の中、アプリアイコンが乱雑に散らばる。
私は慌てて画面をタップして散らばったアイコンを元の位置に戻す。まるで子供が散らかしたそばから片付け直していく親のように。
というかアイコン掴んで投げるってどういう原理なのよ。
「今朝はパソコンの中にいたじゃない!」
なんかもう全てにおいて思考が追いついていないが、さしあたって今一番実害が出ている疑問を桜蘭に叩き付ける。
『そっから来たんだよー』
しかし桜蘭は私の怒号を何処吹く風といった様子で流し、悪戯っぽい笑みを浮かべながらとあるアプリを指さした。
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