1曲目 "もう1人の私"の唄

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 彼女の指先にはVOISYSのスマートフォンアプリ版のアイコンがあった。 「……」  私は思いついたフレーズやメロディを忘れないように、VOISYSをスマホにも入れている。  VOISYSは同一アカウントであれば、どのデバイスでも操作できるようにcloud上で作成データやユーザ情報等を管理できているのだが、まさか… 「パソコンからアプリを通じてこっちに来たって言うの?」 『私もできると思わなかったけど、やってみたら案外できちゃった』  悪びれもせず桜蘭はウインクする。その姿を見て私は心の底からため息をついた。  それができてしまったことで今日の学校生活は散々だった。 ……… …  今朝は突如現れた桜蘭に困惑しつつ、いつも通り家を出た。VOISYSのアバターが話しかけてきました、なんて理由で4月の新学期早々から学園を休むわけにはいかない。  出ていく直前まで桜蘭は騒がしかった。けたたましくなにかを話しかけてきたような気がするが、全て無視した。  いつも通り登校し、いつも通り学園生活を送っていた。2限目に差し掛かる頃には、今朝はなにか悪い幻覚でも見ていたんだろうとさえ思うようになっていたのだが…2限目の終わりになぜかスマートフォンの中に桜蘭がいた。  そこからはもう散々。  スマホの中のアプリアイコンを投げ散らかして遊んでいたり、音楽アプリから音楽を大音量で流し始めたり、アラームを悪戯でセットしたり、カメラで写真を撮ったり。  まるで子供みたいな悪戯を、授業中や休み時間問わず、だ。  おかげで先生から注意されるわ、始まりたてのクラスで悪目立ちするわ、友達からクスクス笑われるわ。  スマホが壊れていて、アラームを消し忘れていて、机の中で勝手に動いちゃって、言い訳の種類も私の頭では限界がある。  なんとか学校が終わるまで、苦しい言い訳でスマホの没収を逃れることができた。  我ながらよく頑張ったと思う。褒めて欲しいくらいだ。 … ………
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