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『なんでそんな疲れた顔してるの?』
疲弊しないわけないでしょうが。
「誰のせいだと思ってんのよ」
『え〜?』
「だいたいあんたの存在自体意味わかんないし、いったいなんで──」
キィ…
捲し立てるように桜蘭を責め立てていた最中、扉の蝶番が軋む音が女子トイレに響いた。
…っ!やばっ、誰か来て──
「っ!!」
咄嗟にスマホをスカートのポケットに隠しながら振り向く。我ながら今の反応速度は誰よりも速かったと思う。反射神経で世界狙えるレベル。
「あ、いたいた。探したよ、蘭織」
音速で反応した先、そこには見慣れた姿があった。
「…彩芽かぁ」
別に難は去っていないが、思わず安堵の吐息が漏れた。目の前にいたのが長い付き合いの幼馴染だったから。
温厚で優しそうな瞳を持つ女の子。枝毛ひとつない黒髪ストレートのロングヘアは、少し癖毛が入っている私からしたら羨ましい。
三倉 彩芽。幼稚園の頃から今まで、いつも一緒にいてくれている私の大親友だ。彼女とは数え切れないほどの思い出がある。それほどの仲の女の子だった。
「…蘭織、誰かと話してなかった?」
「えっ!?」
「いや、話し声が外から聞こえてたから。誰かいるのかなって」
「いないよ!誰も?全然!これっぽっちも?」
「…そう?」
焦って変になった私の日本語に、彩芽は困惑の表情を見せた。
彩芽は奥手な子だが、冷静で聡い部分がある。私の細かな反応からなにかを読み取られていそうだ。
『──!』
ポケットのスマホがブーッとバイブレーションを鳴らした。桜蘭がまた煩く叫んでいる様子。
私はポケットの中でスマホの画面をオフにして、怪しまれないように彩芽に向き直った。
「と、ところで探してたって?」
「いつも通り一緒に帰ろうと思って。でも放課後になった瞬間、急に走って出ていっちゃったから」
「あ、あー…ごめんね。お腹…そう!お腹が痛かったから!」
「大丈夫?」
「もう大丈夫!平気平気!」
未だにけたたましくバイブを鳴らすスマホを、ポケットの中で軽く叩いた。
もしVOISYSのアバターが話しかけてきたなんてバレたら…いくら長い付き合いの親友とは言え、不思議な人認定されてしまう。友達いないの?とか心配されそうだ。
それに、彩芽にはVOISYSの活動を秘密にしている。私のためにも、彼女のためにも…。
「大丈夫ならよかった。じゃあ帰ろ?」
「う、うん」
彩芽の声を皮切りに、私たちは2人女子トイレを後にした。
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