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第一章 観音堂営業部
満員電車に揺られていると、遠くに青空が見えていた。
揺れている窓の外、建物の上にある小さな青空は、ここの上にもある筈なのに、いつも忘れている。それは、それよりも重要な事がいつもあるからだ。
そして今日も、俺には重要な事が待っている。
今日は、先月の月間営業成績が発表される日なのだ。
「行くか…………」
満員電車を降りても人の多さは変わらず、その波に流されるように足早に歩くと、公園に辿り着く、その横にある建物が、観音堂マテリアル株式会社の営業本部であった。しかしながら建物を全て借りているわけではなく、一階から四階までが観音堂マテリアルで、その上に歯医者と内科の医院が入っていた。
俺が公園の横を通り過ぎると、まだ歯医者も内科も始まっていないのか、出入り口のシャッターが閉まっていた。そして俺はシャッターを通り過ぎて、横に曲がった。
観音堂マテリアルは、歯医者や内科とは入口が異なり、一階にあるショールームを入ってゆくのだ。
「おはようございます!」
「おはようございます。小鳥遊(たかなし)さん、今日も元気でいいですね」
ここの守衛は、社員の名前を全員覚えていて、挨拶事に返してくれる。当たり前のようだが、この建物には千人近い社員がいるので神業だ。
「小鳥遊チーフ、おはようございます」
「おはよう、斉藤さん」
ショールームの奥には社長室があり、営業出身の社長は、客の動向を見たいと言ってショールーム側に窓を作って部屋を造った。更に、ショールームに面して応接室もある。そして、応接室の横にエレベーターホールがあり、人が入りきれない程に混みあっていた。
「小鳥遊おはよう」
「おはようございます!」
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