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6.お開き
その後も会合は続いた。
「宇宙人との交信を卒業した」という話で彼らはまた海賊の如く明るく飲み出し、「村上春樹の小説を理解してる顔するのを卒業した」という話では全員が真顔でウイスキーをストレートであおり始めた。
そして「恋人のことを『相方』って言うのを卒業した」という話では再び号泣と、異次元の感性にやはり私は戸惑いっぱなしだった。
やがて約30人分の話が終わり、この『卒マ会』の会合はお開きとなった。
稀少な人たちとすこぶる貴重な体験をさせてもらった。結局彼らのことは理解できないままだったけど、過去一の傑作を書けそうだわ。
にしても一番驚いたのは……
全員お酒強すぎ!!
昼から夜まで何十杯も飲んだことか。それなのにみんな最後まで呂律も足取りもしっかりしていた。
さらに驚くことにほとんどの人が自分の車で帰って行った。
私は思った。
飲酒運転を真っ先に卒業しなさい!
−−−
「……で、これどこまでが本当の話?」
出版社の一室で私の原稿に目を通した後、担当編集者は非難と軽蔑を全開にして私に言った。
私のノンフィクションライターとしての評価はデビュー時から低く、作品は全く売れず崖っぷちに立たされていた。
才能不足であることに感づきながらも認めずに続けてきた。
いつも新鮮味とインパクトの弱さが致命的と言われるからこの作品ではそれを意識したんだけど、追い詰められてた私は一部をフィクションにしてしまった。しかもだいぶお粗末に。
タブーの犯し方にも才能がなかったのね。
あ、私『自分の目で見た実態や感動を、嘘偽りなく世の中に伝える!』って信念を卒業しちゃったことになるんだ……。
『卒マ会』の人たちは私のこの卒業話、喜んでくれるかしら。
<終>
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