1.卒マ会とは?

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1.卒マ会とは?

『自分の目で見た実態や感動を、嘘偽りなく世の中に伝える!』  好奇心旺盛で文章を書くのが大好きな私の天職だと思って、その信念を掲げてノンフィクションライターになったのが10年前。    パパママ達の公園デビューからヤクザの跡目争いまで幅広いジャンルを女目線で取材していくつも作品を出してきた。  次回作は世にあまり知られてない世界を取材したいなあと思ってネタを探してたところなのよ。  ダメもとで調べてたいくつかのうっすい情報の中に、一つ面白そうなのが実在したの。 『卒業マニアの会』。  得体の知れないその響きだけでライター本能がくすぐられたわ。しかも首と脇と足の裏を同時に攻められた感触。  これはいいモノが書けそう。    『卒業マニアの会』会長の緒崎(おざき)さんって方に連絡をとると、二つ返事で取材を受けてくれた。    緒崎さんは年の頃は50くらいの男性だった。蜂の巣みたいに派手なニキビ跡と、眉と目の間と同じくらいの幅しかない狭すぎる額が強烈な印象を残す顔面をしてる。  雑音の入らないレンタルスペースで取材させてもらった。 「改めましてノンフィクションライターの菊地華子です」  名刺を渡して取材開始。 「そもそも『卒業マニア』とは何なのですか?」 「学校の卒業の時以外にね、よく何々を卒業するって耳にするようになったでしょ」 「芸能人が番組を卒業するとか、ギャンブルを卒業するとかですか?」 「そうそう。で、人が何かを卒業したっていう話を聞くことで無上の喜びを得る変態のことを『卒業マニア』って呼んでるんだよ」 「変態だと自覚されてるんですね」 「うん。最初はそんな人間、世界で俺だけだと思ってたんだけどいるもんなんだよこれが。希少な仲間だと思って『卒マ会』を作ったら、あれよあれよで今じゃ30人くらいになったよ」 『卒マ会』と略すのね。 「卒マ会さんのことを是非本にしたいので取材させていただけませんか?」 「ちょうどもうすぐ卒マ会の会合があるよ。会員の卒業話を肴に酒を飲むだけだけど来てみるかい?」 「行きます!」    会合当日。  緒崎さんが経営する都内某所の居酒屋を貸し切って、お昼から夜まで開かれるみたい。  私がお店に着くと緒崎さんが笑顔で迎えてくれた。座敷と数席のカウンターだけの小さいお店だけど、和風で上品な内装が素敵。  緒崎さんの他に3人の若者がいたけど彼らは会員ではなく、お酒を作って運ぶアルバイトの方たちとのこと。  少しすると会員たちが三々五々集まってきた。  最終的に30人近いメンバーが遅刻者ゼロで揃った。座敷席がちょうど埋まってる感じ。  男女比は半々くらいだけど、年齢層は20代から腰の曲がったお婆さんまでと幅広い。  一体どんな未知の光景を目の当たりにすることになるんだろう。    かつての取材の、会話にならなかった『恐竜の子孫会』(自称)や、笑いを堪えることに終始した『エスパー家族』(自称)みたいな事にはならなそうだし、非常に楽しみだわ!
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