おまけの2人

3/3
32人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
夕食後は一緒にゲームをした。 健人はゲームが得意らしく、対戦すれば俺はボコボコ。協力プレイでも俺は足を引っ張りまくっていた。 「健人、ゲーム上手いのな」 「彰紘が下手なんだよ。俺が教えてやる」 文字通り手取り足取り教えられると、多少は使い物になってきた。 と、どこからか軽快なメロディーが聞こえる。 「あ、風呂沸いたみたい。入る?」 「俺は後でいいよ」 「一緒に入ろうぜ」 「っ、いいから先入って来いって」 「ちぇー」 頬を膨らませて、健人は部屋を出て行った。 あのまま「入ろう」としつこく言われていたら、また根負けして入っていたかもしれない。 いや別に、男同士だし変なことはないんだが。 健人、肌白いけど最近撮影で日焼けしたって言ってたな。細っこいけど舞台とかで体力ついたみたいだし、意外と筋肉あるのかも…… っ!? 何考えてるんだ! 俺は頭に浮かんだ想像を振り払って、ゲームを再開した。 入れ替わりで俺も風呂に入った。 風呂から上がって健人の部屋に行くと、ロフトの下に布団が2組敷かれている。その上で健人がドライヤーをしていた。 「健人、風呂ありがと」 「あ、おかえり。湯加減どうだった?」 「ちょうどいい。というか、風呂場すごいな」 脱衣所も洗い場も広く、中は立派な檜風呂だった。枡のような四角い檜のバスタブはゆったりと足を延ばせて、まるで旅館だ。 「父さんの拘りなんだ。あの風呂場でこのマンション決めたみたい」 「お父さん、何してる人なんだ?」 「なんかIT関係? みたいな? よくわかんねー」 うちの親父とは収入が桁違いなことだけはわかった。 髪を乾かし終わった健人が、ちょいちょいと手招きをする。 「髪、俺が乾かしてやるよ」 「自分でやるから」 「いいから、やらせて」 布団の上に座らされ、ドライヤーを持った健人が背後にまわる。なんだかわからないが、今日は俺の世話を焼きたい気分らしい。 ドライヤーの温風と共に、健人の細い指が優しく俺の髪に触れる。 「彰紘の髪、柔らかい。染めたこととかないの?」 「ないな。健人は仕事とかで染めねえの?」 「次のドラマでブリーチするんだ」 「へえ、健人が金髪か」 「ううん、ピンク」 「ピンク!?」 振り返ると、「乾かせないだろー」と前を向かせられた。 アニメのようなピンク頭になった健人、想像がつかない。 「なんかもったいないな」 「似合わないかな?」 「健人なら何だって似合うとは思うけど……でもそんな派手髪にしたら、髪痛むだろ」 せっかくキレイでまっすぐな髪がもったいない。 「彰紘が嫌なら、やめようかな」 「いや、ドラマなんだろ。俺の一存でやめるなよ」 「……ピンクの俺でも、好きでいてくれんの?」 健人が俺の顔を覗き込む。こてんと小首を傾げるこの小悪魔みたいな仕草、わかってやってんだろ。 「当たり前だろ。髪型くらいで嫌いになったりしない」 「よかったー。俺も、彰紘がハゲたって嫌いにならないからな」 「勝手にハゲさせんな」 乾かし終わると、健人は俺の髪をブラシで梳かし始めた。あと寝るだけだってのに。 「彰紘ってさあ、ワックスとか付けたりしないの?」 「したことないな。俺あんまそういうのわかんなくて」 「じゃあ、明日俺がやってやるよ。絶対かっこよくなるぜ」 髪型セットした俺とボサボサ頭の健人が並んでも、絶対健人の方がかっこいいと思うが。 まあ、雰囲気イケメンくらいにはしてくれるのかもしれない。 深夜1時も過ぎ、とりあえず布団に入った。けど、すぐ眠れるわけもない。 オレンジの豆電球の明かりの下で、健人の顔がぼんやりと見えた。 「なんか修学旅行みたいだな」 ぽつりと言うと、健人が暗闇の中でニヤリと笑う。 「なあ、彰紘。好きな子教えろよ~」 「そこまで再現しなくていいって」 「俺はね、彰紘が好き」 左側に寝ていた健人が、ごろんと身体ごとこちらを向いた。 「彰紘は? 彰紘は誰が好き?」 「…………」 「なんで黙るんだよ」 「言わせるなよ」 「言わせたいんだよ」 天井を見上げていると、健人が何やら動き出した。もぞもぞと俺の布団へ入って来る。 「ちょっ、狭いだろ」 「俺のこと好きって言ったら戻ってやる」 健人が俺の左腕にぴとっとくっついてくる。 「……っ」 「なあ、俺たちってさ。付き合ってるんだよな?」 「つ……!」 「なんかあれから恋人っぽいことしてねえし、彰紘は俺のことどう思ってんのかなって」 「……ごめん」 ガバッと健人が起き上がった。 「なんだよごめんって! あのときは勢いで言っただけなのか!? 俺は本気で彰紘のこと」 「違う違う! 悪い、不安にさせてごめんって……」 「……紛らわしいこと言うなよ」 ぎゅっと俺にしがみついてくる健人の髪を、そっと撫でた。細くて柔らかい、まっすぐな黒髪。 「健人みたいなやつが俺なんかと付き合ってるって……恋人だなんて、どうしても実感なくて」 「なんでそうやって勝手に俺との間に線を引くんだよ」 「どう考えても不釣合いだろ」 「誰が言ったんだよ、そんなこと」 「誰も言ってないけど」 「じゃあ気にすんなよ」 不機嫌そうに俺を見上げてくる健人は、心なしか目が潤んでいた。 「ごめん」 「謝んなくていいから、他に言うことあるだろ」 伏せられた健人のまつ毛は長くて、オレンジの明かりに照らされた頬は艶やかに見える。 言うまで放してやらないとばかりに、健人が抱きつく俺の腕に力を込めた。 「好きだよ。健人」 「俺も!」 ちゅ、と不意打ちで健人の唇が唇に触れた。 「――っ!」 「えへへ、良い夢見れそう」 そう言って、健人は俺にくっついたまま目を閉じた。 「自分の布団に戻るんじゃなかったのかよ」 「そんな約束してないもん」 勝手なことを言って、健人はあくびをした。今日も朝から仕事で忙しかったはずだ。眠いんだろう。 健人の細い息が首元をくすぐる。その体温をもっと感じたくて、右腕で健人の背中を抱き寄せた。 「おやすみ、健人」 「おやすみ、彰紘」 fin.
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!