32人が本棚に入れています
本棚に追加
2話
休み明け、廊下で健人と遭遇した。
「彰紘、おはよう!」
「おはよ。昨日見たぞ、テレビ」
「うわ〜、見られちゃったか。恥ずかしいから黙ってたのに」
「球技大会のこと喋ってただろ。マネージャーに怒られなかったのか?」
「話すことは事前に相談しろって言われた。運動神経悪いの暴露するのはまだやめとけって。事務所は俺をキラキライケメンアイドルみたいに売り出したがってるからさ」
「そういや、随分かわいこぶってたよな」
「だから恥ずかしかったんだよ」
「満更でもないように見えたけど」
「まあ俺がかわいいのはわかってますから」
ニヤリと笑う健人は小悪魔のようだった。
子役仕込みなんだろうか。怖っ。
と、健人が俺の顔を覗き込んできた。
「彰紘、放課後ヒマ?」
「ヒマ、だけど」
「今日の仕事6時からだから、それまでヒマなんだ。どっか遊び行こうぜ」
「い、いいけど……」
「よっしゃ。じゃあ放課後、校門前でな」
そう言って、健人は芸能コースの教室に走って行った。
放課後、遊びに……?
ええと、スマホと財布があれば大丈夫……だよな。
なんとなく落ち着かない1日を過ごして、放課後になった。
校門で待っていると、健人がやって来る。
「お待たせ。どこ行く?」
「行きたいとこあるんじゃないのか?」
「特に目的はないよ。ヒマ潰しに付き合ってもらうだけだから。彰紘はどこ行きたい?」
「俺も別に……行きたいところはないけど」
「じゃあ、渋谷でもぶらつく? スタジオも近いしさ」
言われるがまま、健人について渋谷に行った。
ハチ公を取り囲むような人・人・人。激流のように人混みが行き来するスクランブル交差点。
自撮り棒を持って撮影している外国人がそこかしこにいる。
「なに……今日、なんかの祭り?」
「えー! そんなベタなこと言う人ホントにいるんだ!」
健人がレアモンスターでも見つけたように、キラキラした目で俺を見る。
「彰紘、もしかして渋谷初めて?」
「まあ……そう、だけど」
隠してもどうせバレるから言ったけど、なんとなく気まずい。
学校から渋谷まで電車で数分。渋谷に行ったことない生徒なんて俺だけだろう。
しょっちゅう仕事や遊びで来てる健人には、信じられないはずだ。
「マジで! じゃあ、俺が案内してやるよ! ほら、行こ!」
「えっ、ちょ、待てって!」
健人に引っ張られて、スクランブル交差点の激流に飲み込まれた。
最初のコメントを投稿しよう!