4話

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4話

オーディションは無事終わったらしい。 結果は後日ということで、俺まで落ち着かない毎日を過ごすことになった。 数日後、スマホに着信があった。健人からだ。 『彰紘! 受かった!』 「やったな! おめでとう! これから忙しくなるな」 俺の言った通り、その日から健人は忙しくなった。 学校には遅刻と早退ばかりでなかなか会うタイミングがない。 通話する時間はないらしく、深夜スマホにメッセージが送られてくる。すぐに返信しているが、それも途中で途切れてしまう。寝落ちしてるようだ。 健人とあまり会えなくなったのは寂しくもあるけど、オーディションに受かったことは自分が受験合格したときよりも何倍も嬉しかった。 原作は人気らしく、ネットには『イメージと違う』と否定的な書き込みも多く見る。その全部に『見てから言え!』と返してやりたかったが、グッと堪えて放送日を今か今かと待った。 そして初回の放送日。 始まる前から妙に緊張した。俺が出るわけでもないのに。 クールであまり感情を見せず、銀色のメガネを掛けた姿は、健人だけど健人じゃない。完全に愛斗だ。 淡々と話し、ヒロインに鋭い視線を向けるところなんて、見てる俺がドキッとする。 芝居だなんて100も承知だが、生まれたときからこういうやつな気がする。 プロだなぁ。 リビングのテレビで見ていたら、親父がやって来た。 「恋愛ドラマなんて見てんのか?」 「親父、ちょっと黙ってて」 「ああ、そうか。お前彼女できたんだもんな~。そういうお年頃か」 「友達が出てんだよ」 「もうちょいマシな誤魔化し方ねえのかよ」 「いいから静かにしてくれよ!」 親父を追いやって、ドラマに集中する。来週からはスマホで見るか。 いよいよ第1話の山場、健人と練習したシーンだ。 『ごめんね、愛斗くん。せっかく教えてくれたのに』 『以前から比べれば着実に点数は上がっている。謝る必要はない』 『でも、愛斗くんに100点を見てもらいたかったから……私、どうしてこんなにバカなんだろう』 ヒロインは今人気のアイドルグループのセンター、渡辺舞花だった。 ドラマ初主演らしいが、俺より全然上手い。当たり前だが。 『恋』 涙を浮かべる恋を、愛斗が真剣な顔で見つめる。 『お前が頑張ってることは、俺が1番良く知ってる。だから焦らなくていい』 『愛斗くん……』 『だから安心して笑ってろよ。お前の笑顔は、いつでも100点満点だからな』 主題歌が流れて、初回の放送が終わった。 テレビを切ると、ボケっとした俺の顔が暗い画面に映る。 すごいな……健人。 恋愛ドラマや漫画で勉強したって言ってたけど、ああいうことしたことあるんだろうか。 まあ、あるよな。あんなイケメンで彼女がいたことないはずない。 健人の隣に女の子がいるのは、めちゃくちゃ自然だった。 本当に、恋人同士のように見えた。
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