ACT.12「クールスモーキング」

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ACT.12「クールスモーキング」

 深夜2時。今夜はどうしようか、考えながら夜の街をフラフラとあるいているとかん高い声によばれた。 「おーい、ケンちゃーん!」  うしろから聞こえた声にふりむくと、ばっちりメイクのおねーさんがニコニコと笑いながらこちらによってきた。……ダレだっけ、この人。 「やっぱりケンちゃんだ! 店長めちゃ怒ってたよ、忙しいのにバックレやがってって!」  オレがバイトをバックレたのは一度だけ、キャバクラボーイのバイトだ。となると、このおねーさんは店のキャストか。 「久しぶり、半年振り位? 今何してるの?」  おねーさんはスルリと腕をからめてきて、おっぱいを押しつけてくる。  これは……なんだろな。 「あたしね、ケンちゃんの事ずっとカッコいいなって思ってたんだ。ちょっとだけ遊ぼうよ」 「……オレ、金ねーけど?」 「いいよ、奢ってあげる」  おねーさんは楽しそうに言ってホテル街へとオレを引っぱっていく。  ラッキー、今日(きょー)の寝床はキマったな。  ヤることヤって、ベッドのフチへとすわりタバコを吸う。  ふぅーとケムリを吐いた時、背中をヒタリとさわられる。 「中田さん死んじゃったんだよ」 ベッドへうつぶせになった裸のおねーさんが気だるげに言うが……。 「ナカタサン知んねーし」  ダレだそれ。今日はこんなんばっかじゃん。 「あんなに気に入られてチップ貰ってたのに名前知らないとかウケるんだけど。作業着のおっさんだよ、覚えてないの?」 「……ああ、あのオッサンか」  2ヶ月ほどいっしょにくらしていたチビでデブでハゲでさえないオッサン。あの人、ナカタっていうんだ。はじめてしった。……でも、もう関係(カンケー)ない。 「お客さんから聞いたんだけど、あのおっさん借金返す為に借金してって感じで段々首が回らなくなって、アパートの部屋で首吊ったみたい。うちの店からそのアパート近いんだってさ」 「ふーん」 「ふーんって、ケンちゃん冷たいね。お金いっぱいもらってたのに。……ああそれと、ゲイってのは本当だったみたいだよ。キモいよね」  心底イヤそうな声をだす女に、オレはつい言ってしまう。 「別に勝手にやってる分にはキモくねーだろ」  すると女は「へ?」なんてマヌケな声をだしてからだまりこむ。  しかし、しばらくしてからまた口を開く。 「ケンちゃんがバックレてから一度ね、中田さんお店に来たんだよ。ケンちゃんに会いたいって。でも、いないって分かると何て言ったと思う?」  興味(きょーみ)がないので返事(ヘンジ)はしない。 「ケンちゃんの本当の名前だけでも知りたいって言ったの。ケンちゃんって、"ケンビシ ジャック"て名前だったよね。ねぇ、"ジャック"ってホントなの? ホントなら変な名前だよね」  へにゃりと笑いながら「強そうで、かっこいい名前だね」と言ってくれたオッサンの顔を思い出す。  ……んだよ、かっこいいとか言ってたクセに信じてなかったのかよ。あーあ、うれしかったのに── 「クソみてぇな気分だ」  ムシャクシャして強く吸いこんだケムリは、舌がしびれるほど辛かった。 【終】
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