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ACT.11「さよならアンモラル」
「そーいや最近、あの作業着のおっさん来ないね」
キャストの控室を掃除していると、そう声をかけられた。
ふり返ると、イスにゆったりとすわりスマホをいじっている女がひとり。
"作業着のおっさん"というのは"オッサン"のことなのだが、なんて言えばいいかわからず返事につまる。
「あのおっさん、ケンちゃんのこと気に入ってたよね。ホモだったのかな? ケンちゃんかわいいから気をつけないと」
ケラケラと笑いながらもスマホ画面から目をはなさないその人に、オレは「はは……」なんてぎこちなく笑いかえした。
オッサンは、店にこなくなった。
その代わりといってはなんだが、オレは店があがるとオッサンのアパートへと戻り……オッサンの赤黒いチンポをシゴく。
「んっ、きもちいいよ、ケンビシくん。はぁ、かわいい、かわいいよ、ケンビシくん、かわいい……でるっ、」
ビュルビュルといきおいよくザーメンが飛びでる。手にまとわりつく不快なそれをソッコー台所で洗いながす。
何度やってもなれない気持ちの悪い感触。自分のチンコや精液にだってそんなにさわんねーのに、他人のとかマジねーわ。
手をセッケンでキレーにあらってからオッサンのいる部屋へともどると、オッサンは不満そーな顔をしていた。
なにを言いたいかは、なんとなく分かる。だけどそんなオッサンに背中をむけて畳の上に寝ころがり、コートをカラダにかける。
「……ねぇ」
「んだよ、オレねみぃんだけど?」
「そんなに直ぐに洗い流さなくてもいいじゃないか」
「は? だってきめぇじゃん」
その時、ツーと背中を上から下へとなぞられて、ゾワゾワとトリハダが立つ。
「っ、さわんな!」
叫びながら飛びおき、オッサンの方を見ると──数枚の1万円札がそこにあった。
「10万円あるんだ。これで僕のを口でしてほしいし、きみのをしたい。きみのかわいい所をみたいな、」
10万をこちらにつき出してはぁはぁと息をみだすオッサンの目はギラギラと血ばしっている。
「は、はぁ? そんなんムリだって。んだよ、まだ興奮してんのか? もう1発ヌいてやっからその金はしまえって」
「一体いくらならきみの事を買えるの? 用意するから、きみを抱かせてほしい」
「ヤミ金で金借りてるクセに調子ノんなよ、オッサン」
調子にノらせたのは……おそらくオレだ。手でヌいてやれば満足すっだろとカンタンに考えていたが、もうそれでは物足りないトコまできている。
……あー、ダメだ。オレたちはこれ以上いっしょにいたらダメになる。
「オッサン、今まで世話になったぜ。もうオレはここへは戻ってこねぇことにする。ボーイのバイトもやめて、この辺にはもう寄りつかねーよ」
立ちあがり、コートをはおる。
「……え、冗談、だよね? ご、ごめん! もう変な事は言わないし、しないから、行かないでケンビシくん。お金、お金なら借りてきて、沢山あげるから!」
目に見えて慌てはじめるオッサンに冷たく吐きすてる。
「……金は必要だけど、そんなムリした金はいらねーよ」
オッサンはオレを見あげてかたまっていたが、両手で顔をおおって泣きはじめる。
「お願いだから、僕を独りにしないで、いっしょにいて、独りは寂しいよ……。きみがいてくれて楽しかったんだ、行かないで、行かないでくれ。もう独りは嫌だ、」
泣き言を聞きながら、新品のタバコを拾いあげてポケットにしまう。センベツとしてこれ位もらってもいいだろう。
「……んー、オレもまぁまぁ楽しかった。オレンジジュース、うまかったしな。そんじゃな、元気でやれよ」
手をひらひらと振りながら、オレは四畳半の部屋をでた。
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