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ACT.2「タバコとポッキー」
掃除をおわらせると、さっそく買いだしを言いつけられた。
買いものメモにはキッチンで足りなくなった食材やおかし、タバコやキャストの生理用品などが書かれている。
「急げよ」
吐きすてられるよーに言われ、オレは裏口から店をでた。
時給1500円とまかないにつられ、年齢をごまかして始めたキャバクラボーイ。……でも、時給1500円って安くね?
汚物の掃除はモチロン、完全縦社会で、ボーイなんてキャストのおねーさん達や客からいわせれば最下層の"人以下"。ボーイの中にもランクがあっから、新人のオレなんて使いっぱしりで雑用ばっか押しつけられる。
拘束時間も聞いてたのよりだいぶなげぇし、これで1500円はワリにあわねーよ。
やめてーと何度も思うが、マイルールで3ヶ月は同じトコで働くときめてるのであと2ヶ月は続けようかとも考える。
コンビニのレジで店員にタバコの名前を言う。すると……。
「銘柄じゃなくて番号で言ってもらっていいですか~?」
……そーは言われてもオレもどれがどれやらわかんねーんだって。
おたがいにモタモタしていると、ベテラン店員が出てきてオレンジ色に茶色いストライプデザインのパッケージのタバコをレジにおいた。
金をはらい、店までダッシュでもどる。変なことで時間をくったのでこれはどやされるかもしれない。
あー、くそ。ツイてねぇ。オレの運はさっきのチップで使いはたしちまったってことかよ!
案の定、「遅い」だの「ちんたらすんな」だのセンパイ達は言いたい放題。
すんませんと頭をさげると、今度は買ってきたタバコとフードのポッキーをテーブルに運べと指示される。ほんっと人づかいあれぇー。
氷のはいったグラスにポッキーが15本ブッ刺さっている。これで2000円ぼったくるとかマジで鬼。
「オマタセイタシマシタ」
高級ポッキー(笑)をテーブルに運ぶと、「もー、おそ~い!」とキャストにぷんぷんと言われたが、これあとでぜってぇ「ぐずぐずしてんじゃねーよ!」てキレられるパターン。
「タバコもお持ちしました」
オレンジ色の箱を差しだすと、受けとったのは……。
「君が買いに行ってくれたのかな?」
さっきトイレでチップをくれたオッサンだった。
あらためてオッサンを見ると、髪がうすく、小太りで、よごれた作業着というさえないカンジだ。下品な程にきらびやかなこの空間ではういている。
「はい、そうです」
この人、金あんのか? そんなシンパイにもちかい疑問をいだきながら答えると、オッサンはポケットから財布を取りだし、さらにその中から1万円札を引き抜いてこちらへ突きつけてくる。
「ありがとう」
「……え、」
さすがにこれは……もらい過ぎじゃね? あまりのことにかたまっていると、キャストのおねーさんが媚びた声をあげる。
「よかったじゃ~ん! もらっておきなよ~、中田さんの気持ちだよ~!」
なんとなく、受けとらないといけない雰囲気になってしまったのでオレは軽く頭を下げてソレをもらってしまった。
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