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第17話 「こいつが、泣きながらおれを欲しがる声が聴きたい」
(Juergen_GによるPixabayからの画像 )
山中は熱のこもる舌を白石の足の指に走らせる。熱はどんどん白石の身体に上がっていき、喉元で、耳元で、爆発する。
白くはじける花火のように。
「もっ……」
もっと、と言おうとして、白石は意識を取り戻した。思わず、足元をながめる。
男の唾液でつやつやと輝く足の指を見て、茫然とした。
すさまじい欲情が、濡れ濡れとたまっていた。
ああ――この巨体を抱きたい。
ひそ、と紅潮した足の指がけいれんする。
抱きたい、この男を。今すぐに、ここで。
ジャズのリズムとシンクロしながら男の巨体を押しひしぎ、責めあげ、白石でいっぱいにしたい。
熱と欲情とみだらさで、大きな男をひれ伏させたい。
こいつが、泣きながらおれを欲しがる声が聴きたい。
キスを終えた山中は白石の足元にしゃがんだまま、グリーンのシルクシャツをとった。そして唾液で濡れた親指を丁寧に拭きはじめた。
「――あんたの骨、が、好きだ」
「ほ……ほね?」
白石がなんとか息を整えて言うと、山中はにやりと笑った。それから立ち上がり、スーツのズボンを無造作にはかせた。
何の作為もなく、欲情も劣情も熱もない動作だった。
「俺だって、ぜんぶの男の骨にも欲情するわけじゃない。骨がいい男もいれば、筋肉がいい男もいる。髪が好きな男もいたな」
「髪……ヘアスタイルか?」
山中は笑ってかぶりをふった。
「髪の質感というか、さわった時の感触というか。まあ、そんなもんだな」
「かわった趣味なんだな」
「それぞれの男の良いところを見つけるのがうまいって言ってくれよ」
「……そうとも言えるか」
山中は立ち上がった。
「あんた、善い人だなあ」
「馬鹿にしてるのか?」
「感心してんのさ。育ちが良いっていうのかな。あんたの家族はよっぽどいい人たちなんだろう」
「普通の家族だよ。普通の家だし」
違うよ、と白石の脱いだデニムをたたみながら山中は言った。
「あんたみたいな、きちんとした人間を育てられる家は、ちゃんとした家なんだ」
「そうかな」
「そういえば、手首の具合はどうだ」
ああ、と白石は言った。
「きのう、病院へ行った。あと1週間だと」
「仕方がねえな」
「仕方がないよ」
「今日は、シャンプーをしていくか?」
白石はかぶりを振った。
「今日は、このまま帰るよ」
山中は申し訳なさそうな顔つきになった。
「さっきのキスのせいか? もう二度としないから」
「違うよ」
白石は居心地の悪い感じを打ち消すように言った。
「あんただって毎日毎日、迷惑だろう。飯を食わせてもらっているだけでも、こっちはずいぶん助かっているんだ」
「……あんたに喰わせるの、好きなんだ」
ぽそっと巨体が小さな声で言った。
白石のカラダが、こわばる。
さっきのキスよりも、今の気弱な声のほうが白石の芯に刺さった。
このとげは抜けないかもしれない、と白石はひそかに考える。
だがとりあえず――今日は帰ろう、薄ぎたない恋情を、きよらかな身体にかくしたままで。
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