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その婚姻は長く続いていた王国と帝国との争いの停戦終結の為に否応なく姫君に訪れた。
女官は言葉少なく姫君に向かい皇帝から賜わった書状を読み上げると一礼して彼女の私室を去っていく。
「はあ、大層な事よのう」
姫は今年で16歳になる。
帝国の後宮内で殆どを過ごされてきた肌は抜けるように白く、髪の毛の色は黄金の様に輝いている。
目はパッチリと大きく、まるで明るい夏の海のように碧い色をしている。
スッと通った鼻筋の先にある小さく整った鼻梁の下に薄い桃色の艷やかなぽってりとした唇が続く。
最も今はその極上の美貌は、歪められた形の良い柳眉以外は扇で遮られ隠れて見えないのだが・・・
「そも、あの阿呆な皇帝があの様な下らぬ土地の権利に固執するからじゃ」
姫君は忌々しげにため息をつくと、女官が出で行った豪奢な造りのドアを睨みつける。
「耄碌爺共が欲の皮だけは若衆並に張りおってからに・・・」
自分の座るソファーの横に置いてあったリュートを徐に手に取るとその美しい指で爪弾き始める。
異国情緒な調ベが後宮の廊下に広がり始め姫の私室にある窓の隙間から庭園へと流れていく。
後宮の庭を警備する女性騎士や女官達が立ち止まり、その音に耳を傾ける。
そして皆が一様にその美しい音色に一時の己の職務の煩わしさから解放されると、頭を振って職務に戻っていく。
誰かが
「いつ聴いても美しい音だ・・・」
そう呟いているのが聞こえた。
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