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 後宮に大勢の姫たちが帰ってきた。  姉妹達の顔合わせはほぼ満足の行く結果だったようで、楽しそうにはしゃぐ声が後宮の彼方此方で聞こえている。  一足先に私室へと帰ってきていた17番目の姫は姉妹姫達の楽しげな声を聞きながらボンヤリとリュートをほんの微かに爪弾いていた。  明日日が昇ればれば自分は後宮から離れ母の生まれた土地に向かい出発するのだ。  この国の皇室から外国へと嫁入りする時は輿を使って国内を移動するのがしきたりで、行く先々で皇帝の威光を見せ付けるように街道に沿って練り歩くのである。  姫は溜息をつく。 「馬鹿馬鹿しい風儀(ふうぎ)よのう」  今回は行く先々に待つ婿候補の土地を訪ね、見合いを重ねるので正確には嫁入りではない。 「見世物でもあるまいに」  そう呟きながら窓の外を眺めると真っ黒い絨毯の上に砂金を巻いたような星空が広がっている。  突然。  姫の目の前の窓が開け放たれて、黒い人影がスルリと部屋に入り込む。  『曲者!』  と叫ぼうとしたが、現れると同時に床に押し倒されて口を手で塞がれる。 「静かに」  低い男の声。  見上げると真っ黒い頭巾の間から、鳶色の瞳が見える。 「アンタ17番目の姫だろ。まあ、答えなくてもいいけど良く聞けよ」  暗くした照明の明かりで鳶色の瞳が面白そうに弓形に細くなったのが分かった。 「命とか、貞操とか、金とかが目的じゃ無いから言ってる事を覚えろよ。明日夜明けと共に出立する際の護衛に気を付けろ」 「?」 「じゃあな。あばよ」  そう言うと黒ずくめの男は現れたとき同様に窓からスルリと出ていった。  残された姫君は呆然と窓を見つめるが、今言われた言葉に首を傾げる。 「護衛に気を付けろ? 面妖な事を・・・」  恐ろしさより驚きのほうが(まさ)ってしまい、叫ぶことも忘れてただただ男が出て行った窓を見つめていた。
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