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 最初の目的地である貴族の邸では、当主一家が出迎えてくれ下にも置かぬ(もてな)しを受けた。  御輿で練り歩くのには一つだけ利点がある。  それは領主がどのように領民を扱っているかと言うことが分かりやすいことだ。  馬車や馬では見逃すことも、御輿でゆっくり移動しているとよく見ることができる。  この地の領民は皆血色がよく朗らかで御輿を見つけると仕事の手を休めて手を振ってくれ、服装も質素ながらも清潔なものが多いのが目についた。  姫は良い領主なのだろうと判断を下す事にした。  当主の邸には一泊し見合い相手と過ごす時間を取るのだが、当主とは領地のこと等で良い話ができたのだが肝心の見合い相手である息子は、姫の美しさに呆けて何も話が出来ずに終わってしまう・・・  之には流石の姫も困惑した。    夜になり古参の侍女が世話をしにやってきた時に、つい 「私は見合いに来たはずなのでは無かったのだろうか? 領地の視察だったのか?」  と愚痴を溢してしまった。 「まだまだお若いので、姫君の美しさに当てられて心此処に在らずといったところで御座いましょう」  と美しい金の御髪を梳きながら侍女はコロコロと笑った。 「会話ができぬのでは、あの者の人柄がわからぬ」 「あのご子息では胆力が足りませんね」  侍女にそう返されて、黙って考える。  これでは夜中に突然現れた黒ずくめの盗人の様な男のほうが自分の顔を見ながら話が出来る分、まだマシやもしれぬとこっそりため息をつく姫であった。
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