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22
気がつけば国内の見合いは残す所たったの1人迄予定をこなしていたのには驚いた。明日の予定が終われば、皇城から遣わされた騎馬隊と共に、王国へ向けて出立する予定になっている。
「これでは、この国ではなく王国の子息達が婿になるのかもしれぬ」
宿泊する為の豪華な部屋でため息をつきながら窓から見える満月を見上げる。
又明日も御輿で揺られて進むのかと少々うんざりしながら寝床へと向かい、ガウンを脱いで薄い寝間着になり布団にスルリと入ると横になった。
瞼が重くなりうつらうつらとしはじめた時に、何かが顔に吹き付けたようなきがして意識がゆらゆらと浮上する。
薄らと目を開くと何やら人の顔が近くにあるような気配がし、息が顔にかかったように思えて悲鳴を上げそうになったが大きな手で口を抑えられそれは音にならなかった。
「しーっ。姫さん黙って」
それはこの花嫁行列が始まる前日に忍び込んできた黒装束の男だった。頭巾の間の隙間から弓なりになった鳶色の瞳が見える。
「俺の言ったことちゃんとやってないだろ?」
『?』
「護衛をよく見ろって言っただろうが。ボケーっと御輿で揺られて手ぇ振ってるだけじゃなくて、足元見ろって言っただろうが」
『??』
「明日は気をつけて見るんだぞ」
『???』
男はそう言うと、口元の黒いマフラーを手で下げて姫のこめかみに口付けを落とした。
「じゃあな」
姫君がギョっとして固まっている僅かな間に黒い影は窓をひょいと乗り越えて見えなくなってしまった。
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