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夜も更けて寝台でうつらうつらとし始めたときに、何やら甘い懐かしい香りで鼻梁が擽られた様な気がしながら微睡んでいると
「やっぱり帝国の貴族の坊っちゃんじゃアンタに太刀打出来なかったなあ」
耳元で小さく誰かが呟いたような気がして飛び起きると、何時ものように黒装束の男が寝台の側に立っており姫に向かって何かを放ってきた。
掛布の上にポトンと落とされたモノを見ると菩提樹の枝である。
後宮の庭に大きな菩提樹が昔から植えられておりたったの一月程度離れただけなのに懐かしく感じて思わず手に取った。
「・・・あんまり無防備に色んなもんを手に取るなよ。毒でも塗られてたら死んじまうぞ」
呆れたような口調で男は呟いた。
「殺すなら、最初にそうしたろう? お前なら」
姫は菩提樹の枝の薄らかな甘い匂いを堪能しながら返事をする
「まあ、確かにそうだな」
腕を組んでハハハッと笑う盗人装束の男。
「お前は、私を見ても平気なのか?」
「? どういうことだ」
「お前に言われたとおり、周りの兵士達を見てみたが、皆が私を見ては気鬱の様に振る舞うのに気がついたんだ。今まで会ってきた貴族の子息達も同様だった」
拗ねたように口を尖らす姫君。
「これでは、婿どころか知り合いにもなれぬ。この旅で言葉を交わした若い男など、お前以外は誰もおらぬのじゃ」
そう言って増々口をへの字に歪める17番目の姫であった。
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