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「わかったわかった。だがな、俺だから良いが見ず知らずの盗人なんぞにそんなこと言ったら駄目だぞ。攫われて娼館送りか、盗賊の(なぐさ)み者にされるのがオチだ」 「そうだな。流石の妾もソコまでおツムは緩くはない。しかし何故かお主には警戒心が働かんのじゃ。何故かは分からぬが・・・」 「そうか」  寝台に座る姫と、枕に突っ伏した黒装束の男の目が合った。 「姫は海のような青だな美しい」 「お主は海を見たことがあるのか?」 「ああ。海を渡り、商売をするのが本業だ。今回姫について回っているのは頼まれているからだ」  姫は首を捻ると 「誰に?」  男はクツクツまた笑い出す。 「お前のよく知る人で、多分一番大事に思ってくれている人だな。ソレと俺はお前と面識があるんだ。お前は覚えていないだろうが。小さすぎてな」  男は菩提樹の枝を指指すと 「枕元に置いておけ。よく眠れるだろうよ」  そう言って立ち上がると姫の御髪に手をやり、一撫ですると 「明日、何かあったらその枝を空高く(ほお)るんだ。迎えに来てやる。何もなければ捨てておけ」  そう言い残し、するりと何時ものように窓から出て行った。  その夜は後宮の自分の部屋で寝ているような気分で、ぐっすり眠れた姫君であった。  きっと菩提樹の枝から懐しい匂いがしていたからであろう。
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