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「斯様な場所にてその者達が妾に用事など一つしかあるまいて。して、どうして妾の命を狙うのかは、教えてはくれるのかのう?」
姫はそう言うと施政者然とした顔になり、ニヤリと不敵に笑う。
これには襲ってきたであろう賊も、護っている騎士達もたじろいだ。
なにせこの国の皇帝陛下さえ頭の上がらぬ皇后陛下の威圧と遜色ないものだったからである。
血は水より濃いとは言う。
皇后陛下とは全くもって血の繋がりのない姫である。
しかし産まれ育った里に馴染むとは、これこのような場面でも言えることなのであろう。
思わずひれ伏してしまいそうな威圧を放つ美しい姫君に見惚れ、全員がポカンとしたままで姫を見る。
「そなたら、先の道中で妾の輿を運んでくれた者達に相違ないのう。誰にこのような茶番を頼まれた? このような真似をして協定を蔑ろにし、再び罪のない者達を戦に駆り出させるつもりかえ?」
その場に集う全員がハッとする。
「妾の目玉は飾りにあらず。妾は世話になった者の貴賤は問わず皆々等しく覚えておる故、そなたらが止むに止まれずこのようなことをしておるくらいお見通しじゃ」
不意に威圧を解き、神々しい位の美しい笑顔がその顔顔に浮かぶ。
その笑顔を見た途端、賊は全員がその場にひれ伏してしまったのである。
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