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「我々は姫君を連れ帰るようにと皇帝陛下から勅命を受けたのです」
「ほう?」
頭を下げたまま賊が拐おうとした理由を口にする。
「理由はわかりませぬ。我々は言われた通りに動かねば罰せられるだけです」
これには護衛をしていた騎士達も姫も開いた口が塞がらなくなった。
「何故皇帝が・・・ 此度の終戦締結の条件を忘れたわけでもあるまいに・・・」
呆れてものも言えぬとはこのことか。いや、喋ってはいるのだが・・・
「困るのう。護衛らは守るように、お主らは攫うようにではどちらにも罰が下るではないか」
姫は溜め息を付いた。騎士隊の隊長が、
「我々は、軍属であり将軍の指揮下にありますが、この者たちは陛下の私兵なのでは無いでしょうか?」
「そうです。私達は軍に属してはおりませんが、陛下の警備を承っておりまする」
「・・・あの糞が!」
小さく姫が毒づいた。
首元から小さな手を胸元に入れると、昨晩の菩提樹の枝を引っ張り出した。
「これがあの者が言っていた、困りごとかのう」
彼女は枝を高く一度翳し、力いっぱいその甘い匂いのする枝を空に向けて放り投げた。
一度空中で止まり地面に向けて落下していく。
「このようなことで連絡がつくのかのう」
首を傾げながら、言われた通りにしてはみたが、これでどうにかなるとは思えないのが本音である・・・・
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