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 菩提樹の枝が地面に着くやいなや突然日が陰った。  どうしたことかと思わず皆が上を見ると、真上から大きな赤茶色の猛禽類が羽根を広げて滑空してくるのが目に入る。  馬が本能的に危険を察知したのか、大騒ぎを始め落ち着きなく動くため馬車が揺れる。  中にいまだ乗ったままの女官が騒ぎはじめた。  大勢いる男達も、あまりに大きすぎる大鷲が此方に唐突にやってくるのに驚き固まっていた。  姫は。  1人だけ笑顔になり、 「そうか。そうじゃった。忘れておったのう」  そう呟いて両手を大鷲に差し伸べて。  次の瞬間大鷲の爪に捕まり空高く舞い上がる。  騎士も、私兵も、気がついたときには姫の姿も大鷲の姿も空の彼方に消えてしまっていた。  快適とは言いがたい空の旅は直ぐ終わった。  山の中腹あたりに差し掛かる場所で地面に降りたからである。 「のう、従兄殿。ようよう思い出した」 「やっと思い出したのか?」  赤い大鷲の背中から降りてニヤリと笑う赤い髪に陽焼けをした男。  何時もの黒装束ではなく、白いパダーニスーツを身に纏っている。 「嫁にもろうてくれる約束だったがのう」 「俺は忘れてはいなかったぞ。忘れていたのはお前だろう」  ムッとした顔になる鳶色の瞳の男は、皇后陛下の甥に当たる貴族家の次男である。 「大鷲を見るまで忘れておった。すまぬのう」  姫は悪びれずにカラカラと笑った。 「相変わらず(おとこ)らしい姫君だな」  男も呆れて笑った。
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