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「急に別れるって、一体どういうこと? この間、二人で映画を観て、あんなふうに自分の気持ちに正直にできたらいいねって、話をしたばかりじゃないか」
僕は、ほんの二週間前に彼女と観た『卒業』という映画を思い出していた。
ラストシーンで、幼馴染の彼女を愛する気持ちを抑えられない、ダスティン・ホフマンの演じる主人公が、別の男と結婚式を挙げようとしていた教会からその彼女を連れ出すという物語。
最後に、バスにウェディングドレスのままの彼女と並んで座った主人公の顔には、ようやく自立できた自分に安堵する表情が浮かんでいる――というものだった。
「ごめん。私もあの映画にはジーンときたし、あなたと一緒に観ることができてよかった。だからこそ、あなたをこれ以上悲しませたくないの」
「それは違うよ。別れる以上の悲しみなんてないよ。僕は君のことが好きだし、君と一緒にいられることが一番の幸せなんだから」
「それは私も分かってるつもり。でもね、どうしようもないこともあるの。お願い、分かってとは言わないけど、何も聞かないで私と別れて。それがあなたのためでもあるの」
そして、ごめんなさいと言うと、彼女は背を向けて、足早に去っていった。
結局、相手は誰? とか、何処へ行く? といったことも聞けないまま、僕は彼女とはそれっきりになってしまった。
そして、映画のラストシーンでヒロインを主人公に奪い去られ、教会に取り残された結婚相手の男に自分が重なり、道化役のようだという惨めな思いだけが残った。
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