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その後も、彼女がどうしているか気になることもあったが、見ず知らずの男と結婚して一緒に暮らしていると思うと、これ以上詮索しても辛くなるだけだと、そのまま忘れようと努めた。
しかし、彼女との深く温かい思い出の数々を拭い去ることはとてもできなかった。そして、心のどこかに彼女への未練を引きずり続けた。
大学を卒業して勤め始めてしばらく経った頃、仕事で知り合った女性と親しい関係になった。
しかし、あるとき、その彼女から言われた。「あなたの目、いつも誰か私と違う別の人を見ているような気がする」と。
彼女だったらこうしたのに、とか、彼女はこれが好きだったなどと、気づかないうちに橘ひとみのことを思い出して、ときには比べていた。
そんな僕だから、その後も長続きする相手が現れることはなかった。
やがて、親の面倒を見るために田舎の実家に引っ込んで、地元の小さな工務店で働くことになった。
そうやって無為な時間を過ごしているうちに、独身のまま人生の半分を過ぎる歳になっていた。
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