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大坂楓という少女
信号機の色が青。
その1秒先の未来に向かって、「彼女」は走っていた。
街の喧騒の中に滑走する空と風。その通り道の最中に足を動かし、交差点の向こう側へと行こうとする。
その「スピード」は、夏から秋に変わる季節の変わり目よりも早く、また、晴れから雨に変わる空の移り変わりのように唐突に、街の中を駆け抜けていった。
信号機は、黄色に変わろうとする。「赤」の峰の向こうに立つために。
しかし「運命」とは、時間の「境界」は、すでに彼女に与えられてはいなかった。
「彼女」は、この世界に生まれてはいけない存在だった。
…、いや、あるいは彼女はまだ、この世界に存在していないのかもしれない。
青から黄色に、黄色から赤に。
その中間に動き続ける、ゼロコンマ1秒の向こう側に。
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