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くるみさんの話からすると、予言を語る少女というのはマイのことだ。しかし俺の前では予言など口にしない普通の女の子で、父親が家を出てからも、それは変わらなかった。
リビングのソファーで母親とくすぐりあいをして笑っているマイの姿を、カゴ越しにぼんやりと眺めていると、二人がきゃっきゃしながらする会話が聞こえてきた。
「やーめろよさくら~」
「こ~ら!またクレヨンしんちゃんの真似して。ママのとこ名前で呼ばないで」
俺はほほうと思って、思わず呟いた。
「あんたの名前『さくら』っいうんだな。長年同じ屋根の下で生活してきたけど、今初めて知ったわ」
母親が発作的にマイを抱きしめ、ぎょっとした顔であたりを見回した。
「誰?今の声。マイ、聞こえた?」
マイはこくりと静かに頷き、母親の手をほどいて膝から降り、とことこと俺のカゴの前まで来て、覗き込んだ。
「やっと喋り方がわかったみたいだね」
「え?もしかしえ俺、今声出てた?」
「ずっと待ってた。ここからが始まり。一緒に世界を変えるよ、相棒」
突然大人びた口調でそう語りかけるマイに、後ろにいる母親も俺もポカンとしていたが、そのブラウンの瞳を見つめ返しているうちに、俺のなかにマイの参謀としてこれから歩んでいきたいという自覚が、沸々と芽生え始めていた。(了)
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