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Aメロ【Verse】
始まった学生生活は、あっと言う間に何気ない日常に変化した。
それでも事前に調べて決めていた音楽サークルに入った。
弾き語りやバンドもできる自由なサークルだ。
何か日常に化学反応が起きないかと思った。
母親の兄、叔父さんに影響されて始めたブルースが俺のやりたい音楽だ。
マニアックなので、あまり需要が無いのは知っていたが、好きなものはやはり好きなのだ。
初めてサークルのみんなの前で弾いた時は歓声が上がった。
ボトルネックでスライドギターを弾きながらブルースハープを吹いた。
歌は上手くないが、存在感はアピールできたと思う。
しかし、需要は少なく、仲間の誘いや、バンドへの誘いも殆どなかった。
そんな中、1人だけ興味を示してくれた人がいた。
三年生の鳴宮桜子さんだ。
彼女を初めて見た時は言葉を無くした。
圧倒的なスタイルの良さ、小さい顔、吸い込まれそうな瞳、柔らかそうで少し赤みを帯びた髪……
自分が持っている全ての誉める言葉を並べたとしても、全く表現できないほど綺麗な人だ。
恋愛にそれ程免疫を持っていない俺には、話しかける勇気さえ起こらない存在だ。
しかし、そんな彼女から話しかけられてしまった。
「えっと……確か一瀬くんだよね?」
「えっ!!!はい!!!一瀬友希と言います」
「そう、友希くんね」彼女は微笑んでくれた。
「今日のコンパに参加ししない?何か用事がある?」
「な・な・何も予定は無いです」
「じゃあ一緒に行こうよ」
「はい…………」
奇跡が起こったのだ、何と桜子さんから誘われたのだ。
桜子さんはピアノがとても上手だ、歌もびっくりする程うまい、声はとても心地よくて響く声だ。
彼女がピアノで弾き語りをするとうっとりさせられる。
アコースティックグループでも活躍している。
そして先輩たちの中でもプロ並みと言われているバンドでヴォーカルをやっている。
このサークルの女王様的存在なのだ。
色んなプロダクションから誘いがあるらしいが、プロになる気は無いらしい。
桜子さんはコンサートやイベントのスタッフマネージメントもやっている。
彼女にお願いすると色んなコンサートやイベントのバイトができる。
俺も興味があったので、行ってみたいと思っていたが、声をかける勇気が湧かなかった。
コンパに参加して、みんなと楽しそうに話している桜子さんを見てニヤニヤしてしまった。
しばらくすると、何と桜子さんが俺の前へニコニコとやってきた。
「友希くん、どうしてブルースを好きになったの?」
「えっと……おじさんがですね、アメリカに行ってブルースにかぶれてですね……それで習ったとです」
「なるほど……だからあんなに雰囲気があったのね……」
桜子さんは何度も頷いた。
しかし周りは大笑いになった、生の九州弁を聞いたからだろう。
「習ったとです!だって」先輩達が笑った。
周りも釣られて笑い出した。
俺は体温が急上昇するのを感じ俯いた。
笑いはなかなか治らなかった。
突然桜子さんは「九州弁ってなんかいいなあ……」
その瞬間笑いは治った、そして俺の方言は認知された。
馬鹿にしていた奴らも、羨望の眼差しに変わった。
たった彼女の一言で、こんなにも変わるのかと呆気に取られた。
この事がきっかけになり、サークルの中に溶け込めるようになった。
「桜子さん、俺もコンサートのスタッフをやってみたかです」
「そうなの、じゃあ連絡先を教えて」
「はい……これが携帯の番号です」
「ありがとう、今度お願いするね」
「はい、よろしくお願いします」
両親が気を遣って、バイトばかりの生活にならないようにしてくれたにも関わらず、バイト三昧の生活になった。
桜子さんから電話やメールがくる、それだけでも嬉しかった。
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