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サビ【Chorus】
久々に桜子さんと話ができて俺はテンションが上がった。
イベントスタッフでの大失敗などを話して桜子さんを笑わせた。
しばらくすると、ふと思い出したように聞いてきた。
「ねえ友希くん、福岡出身だったら『ロブスターズ』って知ってる?」
「はい、知ってますよ、伝説のバンドでしょう?」
「知ってるの!!彼らのCDはプレミア物で手に入らないのよ」
「えっ!俺持ってますけど………」
「うそ!!!持ってるの???」
「ええ、父親がロブスターズのベースの人を知ってるんで」
「えっ、ベースって女性じゃなかったっけ?」
「そうですよ、今はスナックやってますけど。解散してもう10年以上経ってますからね」
桜子さんはニッコリして甘えるような声で言った。
「友希くん……そのCD欲しいなあ………」
「え〜……どうしようかなあ」俺はもったいをつけた。
「お願い……何でも言うこと聞くから……」
「じゃあ、一日だけでいいから恋人になってもらえませんか?」思わず言ってしまった。
「えっ……」一瞬気まずくなった。
「…………」
「いいわよ」桜子さんはにっこり微笑んだ。
「えっ、いいんですか?……本当にいいんですか???」
「うん、でもCDはもう私の物よ」そう言って笑った。
「はい、勿論差し上げます」
「じゃあ今度の日曜日はどう?」
「ええ!!!嬉しいです」
「友希くんの部屋までCDを取りに行っちゃお、確か所沢だよね」
「はい、本当に一日恋人になってくれるんですか?」
「勿論よ、約束はしっかり守るわ」
日曜になり所沢の駅で桜子さんを迎えた。
「良いところねえ」そう言って手を繋いできた。
「あのう……」恥ずかしそうにしていると。
「今日一日は友希くんの恋人だからね」そう言って寄り添ってきた。
俺の身体中の血が沸騰して歓声を上げている。
「センスのいい部屋ね」桜子さんは室内を見回した。
桜子さんをソファーに座らせると、本棚に置いていたCDを出した。
「これ、ロブスターズのCDです、でもあまり綺麗じゃ無いんで、父に聞いて綺麗なのを探しましょうか?」
「ううん、これがいい、友希くんの部屋に有ったこのCDがいいの、私の宝物にするね」そう言ってCDを胸に抱いた。
俺は言葉に詰まった。
「友希くん、このCD聴いてもいい?」
「いいですけど」
ブルースのCDを叔父さんからたくさん貰っていたので、聞くためにCDプレイヤーを持っていた。
「7曲目の『ラプソディを君に』が聞きたい。
「はい」俺はCDを再生させた。
部屋に甘く切ない狂詩曲が響いた。
「この歌を作った人は恋人のことが余程好きだったのね」
「そうなんですか?」
「だって好きな人に捧げるのは普通セレナーデでしょう?」
「…………そうかも………」
「でも、捧げたのはラプソディーだった……何となく分かるんだ……」
「歌詞もいいしとってもセンスある人だと思うの、でも何でバンド名がロブスターズなんだろう?」
「えっ、知らないんですか?」
「友希くん知ってるの?」
「はい、メンバーの血液型がA・B・A・Bなんですよ」
俺は両手をハサミにしてチョキチョキと動かした「エビ・エビですよ」
「プッ……」桜子さんは慌てて口を塞いだ。
「そんなことだったの?」なかなか笑いがおさまらなかった。
やっと治ったかと思ったら俺をじっと見た。
友希くんって私のこと好きでしょう?」
「えっ!!!はい………」
「いつ頃から?」
「……出会った瞬間からです……」
「なんでもっと早く言ってくれなかったの?」頬を膨らませた。
「俺なんか相手にされないと思って言えませんでした」
「遅いよ…………」
「えっ!!!」
「遅すぎるよ…………」桜子さんは涙をポトリと落とした。
「バカ……私は友希くんの歌を聞いた時から好きになってたのに」
「ええ!!!そうだったんですか」
「そうよ、だから遅いよ」
「ごめんなさい……」
「悪いと思ってるの?」
「桜子さんが俺のことを好きだなんて全く考えられなかったので……ごめんなさい」
「じゃあ、お詫びにキスして」
「えっ……」
「早く!」そう言うと桜子さんは瞳を閉じた。
俺は横に座りそっとキスをした。
「もしかして、これからずっと恋人でいてくれるんですか?」
「それは無理」
「えっ???」
「そうしたいけど無理なの」
「どうしてですか?」
彼女は立ち上がり窓から外を見ながら言った。
「私、心臓が良くないの………だから近々入院するんだ……」
「ええ…………」言葉が出なかった。
「もっと早く言ってくれればもう少し長く恋人で要られたのに……」
「そんな…………」俺の頭の中は混乱した。
「迷ったのよ、好きだったことを話すか………でも一日恋人にって言われたら我慢が出来なくなちゃった」少し笑った。
「俺…………」
「恋人は始まったばかりよ、楽しい一日にして友希くん」
「…………はい……」俺も涙がポトリと落ちた。
「そうだ、友希くんのバイクに乗せてよ、たまにバイクで大学に来てたでしょう、後ろに乗ってみたかったんだ」
「いいですけど……体大丈夫なんですか?」
「遠くまでは無理だから、何処か近く……カフェかなんか無いの?」
「1キロ程先にカフェがありますけど」
「それくらいなら大丈夫」
外に出るとバイクを駐車場から出して、カフェへ向かった。
ログハウスのカフェに到着すると、桜子さんはミルクを注文した。
「友希くんは食事してもいいよ」
「ふふ……」俺は少し笑った。
「どうしたの?何がおかしいの?」
「胸がいっぱいで食べれる訳無いじゃ無いですか」ふてくされた。
「そっか」桜子さんは笑った。
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