転調 【modulation】

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転調 【modulation】

「友希くんのバイクのナンバーって5633なのね、ハ長調だとソラミミだわ、少し寂しいメロディだね、ソ・ラ・ミ・ミ・」指で鍵盤を叩く様な仕草をしながら歌った。 「えっ??」 「ドが1度だから5度はソ、次はラ、3度はミ・ミ」 「あっそうか」納得した。 「空耳ライダーだね」笑った。 「桜子さん」俺は何処に入院するのか聞こうと思った。 「桜でいいよ」 「えっ……」 「子をつけないで呼んでいいのは友里香と友希さんだけ」 「…………」 「だって桜だとすぐに散りそうだから」少し笑った。 「…………」 「一日恋人だから、今夜泊まってもいい?」 「はい……いいですけど……」 「何?嬉しくないの?」 「嬉しいにきまってますよ、ただ心配なだけです」 「何が?」 「桜子…桜さんの病気が……」 「大丈夫よ」 「…………」 「今夜ご飯作ってあげる」 「えっ……ありがとう……でも…食べれるかなあ?」 「私の料理は不安なの?」 「違いますよ、胸がいっぱいだから」泣きそうになった。 「友希!しっかりしろ!!!」彼女は笑った。 「はい!」俺も強ばった笑顔を返した。 「リクエストはある?」 「桜さんと一緒に食べれるものがいいです」 「そう……地味なメニューになちゃうけど……」 「でも、それがいいです」 スーパーで買い物をして、部屋に戻ってきた。 夜になって彼女は、持ってきていたエプロンを着けて料理を始めた。 俺はその後ろ姿を見て、涙が止まらなくなった。 何でもっと早く告白しなかったんだろう、後悔した。 「はい出来ました」 テーブルには豆腐のお味噌汁、マカロニサラダ、オムレツが並んだ。 「なんか病院食みたいだね、こんなので良かったの?」桜さんは少し首を傾げた。 「いえ、とても美味しそうだし、一緒に食べれるのが嬉しいです」 「買ったチーズとワインも友希さんは楽しんでね、私は飲めないけど、楽しくなって欲しいから」 「はい」俺はワインのボトルを開けてグラスに注いだ。 「桜さん、何処の病院に入院するか教えてくださいよ」 「ダメよ」 「どうしてですか?」 「だって、やつれていく私を見せたく無いもの」 「そんな……教えてくださいよ」 「絶対にダメ!!!」 「…………」 「今夜はお泊まりだ、嬉しいなあ」桜さんは楽しそうだ。 俺も、もっと楽しそうにしなくてはいけないと思った。 「ねえ、友希さんの家族の事や子供の頃の事を聞かせて」 「俺の父親はかなりキツめのヤンキーだったらしいです、勿論弱いものいじめとかはしない人だったらしいですけど。 母は同級生、ガリ勉タイプで瓶底のような眼鏡をかけてたらしいです」 「へー、そうなんだ」 「父は工務店を始めるときに、経理ができる頭のいい人を奥さんにしようと思ったらしいんです、そんなときに同窓会があって母と会ったら、コンタクトで化粧してて可愛くなってたらしいんです」 「女は化粧で変わるからねえ」笑った。 「父はその同窓会でいきなり母に結婚してくれってプロポーズしたらしいです」 「母はびっくりしたらしいけど、この人だったら楽しい人生になりそうがと思ったらしいですよ」 「なんか素敵かも……」 「でも結婚したら、母はとても気が強くて、すぐにお尻に敷かれたらしいです」 「ますます素敵」桜さんはニッコリした。 「いつも『何これ!!経費がかかり過ぎでしょう』って怒られてます。 「いいなあ、幸せそう……友希くんはどんな子供だったの?」 「俺は体が弱くてもやしみたいでした、だから元気になるように格闘技を色々と習わされました」 「だから、打ち上げの時私の腕を掴んだ人をやっつけてくれたのね」 「まあ……父は強くなくちゃあ大切な人を守れないからって口癖でしたから」 「友希くんが私を守ってくれて嬉しかったわ、あの時好きって言いそうになっちゃった」少し舌を出して笑った。 「言ってくれたらよかったのに」 「でも言ったら、上級生に睨まれるかもって思って」 「そうかもしれないですね」頷いた。 「桜さんって横浜でしょう?横浜の何処なんですか?」 「えっ……それは……あまり言いたく無いなあ……」 「ストーカーになったりしませんよ」 「何それ……」少し笑った「桜木町よ……」 「桜木町の桜子「さんですか……」 「ほら!!!絶対そうなるもん、だから言いたくなかったの」頬が膨らんだ。 「何も問題ないと思いますよ」 「私にはそのニュアンスが耐えられないの!」 会話は夜まで盛り上がった、互いを思う気持ちが一気に深くなった気がした。
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