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「俺はお前に言わなかったか?」
「はい…っ」
ガァン!
扉の横のゴミ箱が、文字通り宙を舞った。
お父さんの足がゴミ箱の次に、宮田さんの肩を蹴って、宮田さんはドア枠に叩きつけられて呻き、それでもまた膝をついて頭をさげた。
「娘の嫁ぐ男も…宗士の相手も決まってるって…話しただろうが?」
「はいっ!」
「…で?お前はこのバカな娘を、何故抑えとかなかった?」
「すみませんっ!」
「顔に傷をつけられた…どう落とし前つける気だ…?」
同格の組長さんだと思っていた。
多分美咲さんも。
だけど、宮田さんはお父さんを兄貴と呼び…美咲さんの顔の腫れにも一言も文句を言わなかった。
「…っ」
「連れて帰れ…話はまた後だ…二度とこの女を、俺達の視界に入れるな」
「はい、失礼します」
宮田さんは美咲さんの腕を掴んで、引き摺るように連れ帰った。
お父さんは振り返って、するっと私の頬を撫ぜた。
「お前は…アレに声を掛けられたらすぐ、外に出るべきだった…わかるか?」
そうしていれば、こんな大事にならなかった。
護られる側としての、判断を誤った。
「はい、すみませんでした」
謝った私に、お父さんは苦笑いを浮かべて。
「…椎野も便所にゃついてけねぇ…次は間違えるなよ」
絆創膏の貼られた私の瞼をそっとひと撫ぜした。
「宗士、用事は済んだか?」
「はい、こちらに向かってる途中でした」
お父さんはコキと首を鳴らして、私の肩を抱いて隣りに座る宗ちゃんと目を合わせた。
「…雫はお前にやる…お前にその気があるなら…俺が退いたら後の席もやるつもりで居る…腹が決まったら言ってこい」
と言った。
宗ちゃんはたちあがって、膝に頭がつくほど頭を下げた。
「…この後は、宮田と話して後処理をしろ…任せたぞ」
「はい」
宗ちゃんはお父さんが部屋を出るまで、頭を上げなかった。
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