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コンとお母さんが窓を小さく叩く。
二人同時に振り返った。
立原さんがおっ!と楽しそうな顔をして、ぐ!と指を立てた。
宗ちゃんは、少し目を細めて会釈程度に頷いた。
お母さんが、悩んでいた靴を両手に持って二人に見せる。
あ、選んでもらうって事なのか。
それを見た立原さんはニッと笑って隣に立つ宗ちゃんの肩を叩いて何か言った。
宗ちゃんはチラっと立原さんを見て、少し考える目をして。
そのまま店の中に入ってきた。
「あら、宗士君に任せられたのね?」
お母さんがイタズラっぽく微笑んで、2足とも宗ちゃんに手渡してしまった。
「どっちが良いかしら?」
「…ゆこさん…僕はこうゆうのは…」
控えめな声で、宗ちゃんはそう言ったのだけど、お母さんはうふふと笑った。
「決まらないで困ってるの、宗士君は雫とずっと一緒に居たんだから、ね?…私自分の服も決めなきゃだし…お願いね?」
そう言いながら、お母さんはさっさと奥のスペースへ歩いて行ってしまった。
ドキドキと胸が鳴る。
2足ヒールを持たされた宗ちゃんが、私にチラっと視線を合わせた。
宗ちゃんはまだ学生の頃から、とてもモテていた。
他の男子よりずっと大人びて見えたんだと思う。
容姿が整っているし、他の男子みたいなバカ騒ぎもしなかったし。
いつもどこか飄々としている宗ちゃんが、少し困った目をしている。
濃いグレーのスーツと、ワックスで流された大人っぽい髪型。
笑っていなければ冷たく感じる位整った顔をしている。
「…」
宗ちゃんが、一度瞬きをして。
そして真っ直ぐ私と視線を合わせた。
ほら、お母さんやっぱり戻ってきてよ。
宗ちゃん私の目を見たまま、動かないじゃん。
微笑んでない宗ちゃんと見つめあうのが、こんなに不安になるなんて思わなかった。
コツ…宗ちゃんが大きく数歩後ずさる様に後ろに歩いた。
そして、視線が私の目からすーっと、上から下へ足元まで下がる。
そしてまた停止した。
バクン…バクン…。
何だか急に宗ちゃんが大人に見えて。
そんな風に、知らない大人な顔をして見つめられる事を知らない私は、1ミリも動けずに立っていた。
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