護られる者

1/11
前へ
/74ページ
次へ

護られる者

夕食とお風呂を済ませ、私はベットの上で正座をした。 てっきりお母さんと同じ車で出掛けると思っていたけれど、食事を終えて立ち上がりながらお父さんは言った。 「お前は宗士に車を出させろ…ゆこに付けるのはゆこの護衛だ」 つまりは、宗ちゃんに宗ちゃんの仕事をさせろと言う事で。 宗ちゃんの立場を確立させるのも私に出来ることなのだ。 しばらく外出しないって言っちゃった手前、ちょっと言いにくい…けど。 前なら簡単に電話をかけて、明日でもいい内容をペラペラまくし立てていたけれど。 『宗士さん』相手に電話をかけるという事が、私を躊躇させる。 でも、これも宗ちゃんの護るべき相手として必要な事で…。 「…よし」 普段使う無料通話では無く、あえて電話番号を表示させてそちらから。 数コールで繋がった。 『はい』 今度は何だよの響きが含まれない返事は、少し冷たく感じる。 メッセージにすればよかった。 「明日、出掛ける事になりました」 『そうですか、お時間は?』 勝手に決めるなよ、…何時?って、結局付き合ってくれる宗ちゃんが頭を掠めて、目を閉じる。 「母も一緒なんで、朝食後にまた連絡します」 『…はい』 寂しいなぁ。 …でもいいの。 明日も会える、それだけが今の私を支えてる。 翌朝、お父さんを送り出したお母さんがシンプルなロングスカートで私の隣に立った。 私も昨日買った服の中から、なるべく大人っぽく見えるコーディネートを選んだけど…。 うん、お父さん…やっぱりお母さんいい女だわ。 「さ、行こっか?…嬉しいわ、雫の洋服選べるなんて」 確かに、お母さんと私の服の系統がかけ離れていた事もあって一緒に洋服を買いに言った事無かった。 …私が宗ちゃんを誘っちゃうのも、あったけど。 駐車場に降りると正面にお母さんが乗る車、その後ろにつけて私の車が待機していた。 立原さん、今は剣道の強い高校の寮に入っているちーちゃんのお父さんが、後部座席のドアを開けた。 「ありがとう、京君。急にごめんなさい」 「いーえ、どうせ事務所でサボりの予定でしたから」 そう言って、立原さんは私を見つめた。 「雫ちゃん、久しぶり…綺麗になったねー」 「お久しぶりです、えへへ」 小さく頭を下げて、私は後ろの車に向き直った。 宗ちゃんが後部座席のドアを開けて待っていた。 「おはよう、宗士さん」 「おはようございます」 今日もスーツの宗ちゃん、素敵。 綺麗になったねって、宗ちゃんに言われたら…もっと嬉しかったのにな。 宗ちゃんはお母さんの車の後ろについて、ゆっくりと走り出した。
/74ページ

最初のコメントを投稿しよう!

959人が本棚に入れています
本棚に追加