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うなずいてたくましい首に両手を回すと、鬼猿は満足げにユナを抱きかかえた。ふわり、宙に身体を浮かせる。背中の外衣が翼のようにはためく。
一陣の風がふいた。春を告げる強東風。生まれ育った森がどんどん小さく遠くなっていく。ユナはまばたきする。まさか自分が森を去るなんて。
こんな日がくるなんて思いもしなかった。無性にさびしくはあるけれど、今はそれより夢の中にいるみたいだ。
空を飛ぶ。なんて爽快な感覚だろう。
心を躍らせていると、幻のように耳元で囁かれた。
「ユナ。あんたはこんな俺をうけいれて、身を挺して救ってくれた。これから一生、大切にするよ。……ありがとうな」
闘鬼は気にいった者を力づくで攫って住処につれ帰り、これを貪り食うという。
悪名高いその世評のまま、ユナもまさに今つれ去られようとしている。
けれどこの青陽にはてない未来を得た胸はときめき、今まで迎えたどの春よりもうれしく身軽だった。
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