ジャムような惜別

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それから数十分ほど、もったりとした無言の時間が流れた。雰囲気と酒を体に馴染ませるかのような、退廃的とも捉えられる時間で あった。  しかし、その時間を堪能するほど2人に余白のようにゆったりとした余裕はないようだった。目を伏せがちにして押し黙るK山に、Y崎は話題をとっかえひっかえしていた。 「てか今日ずっと思ってたんだけどさ、暗めのネクタイも似合うのな。雰囲気に合ってるっていうか、なんかかっこいい気がするわ。」 「……。」 「そういやさ、今日大学のやつらとか久しぶり会うやつらもいただろ?話さなくて良かったの?あぁいう場だけどさ、実際は久しぶりに会う人たちの集まりみたいなもんじゃん。飯食って酒飲んで、おー久しぶり今何してんのーみたいな。……ま、お前は真面目だし繊細なとこあるから、そういう気分にはなりづらいかもだけど。…………あ、もしかしてあれか!?職業病でちゃう感じ?ただ間柄を世間話として聞いてるだけなのに、聞き込みみたいな感覚になるあれ。俺もなるんだよ。なんならこないだやらかしたよ。名前聞いてすぐにご職業は?って聞いちゃったもんな。うわ思い出したら恥ずかしくなってきた、忘れて。」 「……。はぁ、」 「あは、今日何回ため息つくんだよ!幸せ逃げるぞ!逃げる幸せもないってか!?」 いくら褒められようとも、世間話をしようとも一向にK山の反応はない。K山は一心不乱に酒と何かと向き合っている様子である。N崎はその何かについて、確信に近いほどの心当たりがあった。にも関わらず、あえて口にせず意識的に背を向けていた。それが2人にとって現実から非現実に逃走する、最も楽で手短な非常口であったからである。  N崎が苦し紛れに次の話題を話し始めると同時に、K山はスマホを取り出した。雰囲気に飲まれるような明かりのなか、K山の顔だけが薄く白色に染まる。その顔がやつれていると、そうN崎には思えた。だが、K山はこの顔も週末だからという理由で片付けてしまうと、N崎にはそうも思えた。理由さえ見つけさえすれば、あとは無心に信じこめばいい。嘘を本当に変えるにはただ信じ込めばいい。そうしたら複雑な脳や記憶でさえ、あっという間に欺けてしまうことを、悲しいかな大人はわかっている。白色の光を無言で眺めるK山を見て、ついN崎も黙り込んだ。変わらずK山はゆるりとした光を受けながら、指を滑らせている。少し眺めてからゆっくりと指を滑らせる。左へ左へ、そうかと思えば右へ左へと指を踊らせていた。 「お、アルバム見てんだ?」 指の動きで気がつくと、不自然なほど嬉しそうにしてN崎がK山に身を寄せる。K山は避けることもせず、やはりひとりで思い出に浸っていた。
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