ジャムような惜別

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吹雪が明けた静かな夜であった。冷酷で酷く真っ直ぐな冬の夜風が、星々と街を淡々と包む。そんな冬の一幕、行きつけのこじんまりとしたバーでK山は飲んでいた。刑事の刹那的な週末を理由にして飲むには、(いささ)かハイペースである。暗めでありながらも柔らかい明かりが、それほど高くない酒を魅力的に仕立てていた。K山も安酒で悪酔いできるほど若くない。なによりこの高くも安くもない飲みなれた味の酒が、人肌のように恋しかった。ほどよく都合よく現実から逃れて、お情け程度に思考できる頭と理性が残っていれば、結構。それで満点の気分だった。  3杯目が半分ほどなくなり、グラスをなんとなしにひと回ししたときである。外気のように冷えた空気が、すうっとK山の近くを通り過ぎたようだった。 「あれ、なんか珍しく悪酔いしてる感じか?K山はいったい何飲んでんの?俺も同じの飲もっかな。」 「……。」 「あーあ、いつもの冗談だからって無視すんなよなー。いやわかってるよ?俺はまったく飲めないから、聞いたところでってことくらい。でもほら、つい聞きたくなるじゃん。会話の手始めとしてね?」 「マスター、同じものを濃いめでもう一杯お願いします。」 「おやおや、もしかして今日は酔いたい気分、みたいなやつ?はーびっくりするね、ほんとに珍しいこともあるもんだな。いつも軽く酔う程度でおしまいにするK山から、濃いめでもう一杯なんて聞くとは。」 N崎はほとんど似ていない声真似を披露しつつ、K山に話しかける。その横で色の濃くなった酒を受け取り、K山はなめるように飲み始めた。まるで聞こえていないようである。N崎は、絵画を眺めるようにしてそのやりとりをじっとりと見ている。透明な隔たりを感じながらも、それすらも目に焼きつけるように、そして雰囲気を味わうようにして。
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