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休憩が終わったら、本格的な発掘作業だ。スーツを着て酸素ボンベを背負い、水中へダイブ。スーツ越しに感じる水はどこか他人事のように感じる。やや濁った水の中、道具一式を持ちながら発掘ポイントを目指した。今回の発掘ポイントは長家があった場所の一角だ。教授の案内で目的地へと導かれた私達は、5分ほど泳いで移動した。水草や魚など目に見える生物がいないので、代わり映えのない景色が続いた。ポイントについた私達はまず周辺の観察と記録から始めた。発掘調査は観察と記録が重要、と言うよりもそれが全てだ。もちろん調査対象を傷つけないような丁寧な発掘作業も重要だが、それはあくまでも調査のための作業である。私達は一通り周りの環境、生物の有無や土砂の状態、水温などを記録していった。
記録が終わればいよいよ発掘作業だ。まずは教授が発掘可能かどうかを調べ、問題ないことが確認出来れば作業を開始する。教授からゴーサインが出たので、作業を始めた。エアーリフトを使って土砂を除き、その下に眠る建造物を掘り出す。あらかじめ大きな岩などがない場所を選んでいるので特別トラブルもなく、粛々と発掘作業は進んだ。水中での作業中は基本的にはハンドサインでやり取りするため聞こえてくるのは自分の呼吸の音だけだ。規則正しく聞こえる音の中、持ち回りで少しずつ掘り進め、しばらくすると今回の目的である建物の基礎が見えてきた。
60年以上前の建物なので、基礎も現代と比べるとかなり簡素だった。均等な間隔を開けて整形された石が並んでいる様子は、パッと見ただけではこれが人工の物なのか、そうでないのか分かり難かった。だけど、よく観察すると加工された跡が見え、ここに人の手が加えられた事が理解できた。たったそれだけの物ではあったけど、ようやく見ることができた村の痕跡に、本当に村があったんだという安堵を感じるのと同時に不思議な感覚が沸き起こっていた。懐かしい訳ではないはずなのにどこか懐かしさを感じる感覚。それはもしかしたらずっとこの時を想像していたからかもしれない。ふとチヨばあの話が頭を過った。
「あの村には田んぼど畑しかながったけんど、夏になるど桔梗が一面に咲ぐ場所があってね。それはそれはとでも綺麗だったんだ。おめさんにも見せでやりだがったけんど、今は水に沈んでいっからねぇ。」
あぁ、チヨばあ、今私はチヨばあの故郷にいるよ。
ここにはもう人も建物も桔梗の花畑もないけれど、でも確かにここに在ったんだ。
確かに歴史があったんだ。
今はもう想像する事しか出来ないけれど、それを記して伝えていく事は出来る。
あなたが愛した村が忘れ去られてしまわないように。
語り継がれるように。
私はスーツ越しに滑らかな感触を確かめながら、静かな誓いを胸にした。そうだ。今度帰った時にチヨばあの墓前へ報告しに行こう。チヨばあ、チヨばあのお蔭で考古学者の卵が生まれたんだよって。私はその卵をこれから育てて行くんだよって。
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