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ぷはっ。
ゴーグルを外し空を見上げた。夏の雲一つない空が目一杯広がり、眩しさに目を細めた。酸素ボンベの重さを背中に感じながら、夏だなぁと当たり前の感想を抱いていた。
「夏だねぇ。」
今回の相棒である小島渚が同じ格好で呟いていた。
「そうだね。」
「夏に水中探索とは乙だねぇ。」
「景色は殺風景だけどね。」
渚は急にこちらを向き「それな。」と言ってニカッと笑った。夏の日差しを思わせる明るい表情を見て私もクスッと笑った。そう私達は今、水に沈んだ村にいる。
遠い昔、私が私の両親が生まれる前に、ここに村があった。取り立てて特徴がない村だったが、近代化に伴ったダム開発によって水に沈むことが決まった。当時は住民からの反対もあったそうだが、最終的に村民は全員移住し、村は水の底に沈むことになった。それから60年、ずっと村は水に沈んでいる。
私達は水中考古学を学ぶため、課外授業としてこの廃村を調査していた。調査と言っても大規模なものではなく、基本的な考古学調査の軽い実地演習のようなものである。ただ、実践的な授業の割にはこの授業はとても不人気で、大学2年から選択できる最初の課外授業にも関わらず、やれ1秒でも早く潜りたい水中ジャンキー用の授業だの、やれ教授への点数稼ぎだの酷い言われようだった。というのもこの場所は、調査対象となる建造物がほとんどなく、それこそ単に潜るだけであり、かつ水質があまり良くないため、水中での見通しが悪く、海水とは違った生臭さがあるからだ。あとは夏休みに短期集中で行われるのも原因だろう。大学生の貴重な休みをわざわざ減らす人は少ない。その授業をどうして私が選択したかと言うと…
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