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久しぶりの実家は何一つ変わっていなかった。 変わったのは父が日雇いではなく、小さい建築会社に就職が決まった事だろうか。 やっぱり僕を育てる事が仕事に影響していたのだと思う。 父は僕が帰ってきたのを喜んで奮発してすき焼きを準備してくれていた。 いつもは豚肉だったすき焼きが今夜は牛肉が入っている。 滅多に食べれないご馳走に僕はすき焼きを頬張りながら東京での話をした。大学の事、バイト先の事、そして坂道荘の事。 でも父に心配を掛けそうで幸子さんの話は出来なかった。 その時笑って発泡酒を飲んでいる父の背後から見える廊下に幸子さんが立っているのが見えた。 「あぁあー!」 まさか実家にまで現れるなど思わなかった僕は大きな叫び声と共に後ろの襖に張り付いた。 怯えた僕を心配した父から何があったのかと執念問いただされ、僕は渋々幸子さんの話をした。 「幸子…?そこに幸子と言う女が赤ちゃんを産んで死んだって?」 発泡酒を持っている父の手が震えている。 「で、その人を孕ませた男がそこにまだ住んでいるのか?」 「う、うん。殆ど会わないけど…」 父は発泡酒の缶を机に置くと、長く深い息を吐いた。 「お前が帰る時父さんも行くよ。まだ休みがあるし、お世話になってる人に挨拶しないと」 父は不自然な笑顔を見せ、僕は触れてはいけない何かに触れてしまった様な変な罪悪感を感じた。
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