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僕はその後坂道荘を出て他のアパートに引っ越した。 自分の生い立ちを知って落ち込む僕に相羽さんは背中を強く叩いて「あんたの血は育てのお父さんの血もちゃんと流れてるのを忘れんじゃないよ!」と励ましてくれた。 僕は思う。幸子さんの方があの男に依存していたのだと。繋ぎ止める道具として僕は産まれた。幸子さんは母親として僕を坂道荘へ呼んだのではなく、女としてのあの男への執着の為だった。 だからなんだと言うんだ。 父から受けた愛情は変わらない。 僕の親は昔も今も父だけだ。 冷たかった北風は少し春の温かさを含んできていた。 足元に咲いてるぺんぺん草の脇を蟻が行儀よく一列に並んで通って行く。 僕はその蟻をプチプチと踏み潰した。 リリリリィン リリリリィン 誰もいない坂道荘の台所のピンクの公衆電話が鳴り、受話器が勝手に滑り落ちるとバネの様に巻かれたコードが上下に跳ねて揺れ動く受話器から女の声が聞こえる。 『私の赤ちゃん…可愛い赤ちゃん…産んじゃってごめんね…』 ー終わりー
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