坂道荘

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「いらっしゃい」 飾りなどない机と対面に置いてあるイスだけの殺風景の店内。 その風景に溶け込むような小柄なおじさんが下がった厚い眼鏡から上目遣いで僕を見た。 「あの…一番安い物件ありますか?」 「学生さん?」 「あ、はい」 「学校どこ?」 「S大です」 「S大ね…。2駅先の所に安い物件あるちゃあ、あるけどね…」 おじさんは頭をぽりぽりかいた。 2駅先なら徒歩圏内と思ってもいい。金が少し溜まれば安い自転車を買おうと思っていたし、僕はその物件に期待した。 「その物件見せて下さい!」 おじささんは「ちょっと待って」と奥へ入っていくと一枚の物件が書かれている紙を持ってきた。 その紙には4畳の畳の部屋の間取り図と、台所、洗面所、シャワー、トイレ共同。 敷金礼金なし。家賃1万6千円と言う文字が書かれている。 「え?この立地でですか?」 「うん。でも色々と共同だし、決まり事多いんだよね…。でも次に安いのは5万はいっちゃうからなぁ」 僕はその紙を穴が開くほど眺めた。 なんてついているんだ! こんなに安い物件は絶対見つからない! 共同?全然問題ない。 「ここに決めます!」 僕は即決した。
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