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2 佐々木 (八尋)
「いいなと思ってたんだけど。付き合ってくんね?」
一緒にマックいかね?
みたいな軽いノリで告白されたのは、高一の秋だった。
佐々木は高校で出来た友達の、同じ中学からの友達って事で知り合って、時々一緒に遊ぶようになった奴だった。
でもまあ、そんなに馬の合うタイプでもなくて、本当に皆がいる時にしか話した事も無かった。よって特別親しくもない、と俺は認識していた。
だから知り合って2ヶ月くらい経った頃、カラオケ帰りに他の連中と別れて一緒に駅に向かったのが、初めて2人きりになった時だった。
何時もならもう1人、同じ方面の電車の奴がいたんだけど、その日はそいつがいなくて。何を話す訳でもなく一緒に歩いてたら、急に告白されてだな…。びっくりしたわ。ノリ的に、冗談かと思うじゃん。
俺は困った。
白状すると、最初に会った時から、俺は佐々木が苦手だった。だけどそんな事、ガキじゃあるまいし、大っぴらに口に出来る事でもない。
で、俺がいけすかなかった当の佐々木がどんな奴だったかと言うと…。
タレ目がちの整った顔してて、身長も俺より高くて、ノリが軽くて器用そう。女にもモテてたし、世渡り上手って言うのかな、人の懐に入るのは上手かった。
それで、俺は疑り深い所があるから、逆にそういう調子良さげな奴って信用出来ねえな…って思う方。
相性悪いよなあ、って思ってたし、わざわざ関係深める気も無かった。
とりま友達の手前、その場にいたらそれなりにつきあう程度で良いかなって。
なのに、突然告白とかおかしくね?
冗談だと思うよな、誰でも。
だから、断ったんだよ。
「あー、そなんだ。でもごめんな、無理だわ。」
軽く言われたから軽く返した。
そしたら佐々木、それ迄へらついた薄笑い浮かべてたのにさ、急に俺の手を掴んで、指を絡めてさ。びっくりして振りほどこうとしたんだけど、佐々木の力は強かった。
そんで、そのままぐいぐい早歩きで引っ張られて、ビルとビルの間の路地に引っ張り込まれた。
で、壁ドンってやつをされたんだよな。不本意にも。
「俺、マジなんだけど。」
そう言いながら真正面から向き合った佐々木の顔を、俺は至近距離でその時初めて見たんだよな。
まあ夜になってて暗かったけど、通りから漏れてくる灯りに照らされて浮き上がって、 鼻と鼻が触れそうに近づいた距離から見た佐々木はマジで綺麗な顔してたよ。
タレ目に睫毛バッサバサってすげえわ。鼻も高くて唇は少し肉感的。
顔が良いから、一見ピンクっぽく見えるレッドブラウンに染まった髪色も違和感無く顔周りに馴染むんだろうな。
正直、羨ましかったわ。
俺ときたら、ΩはΩなんだけど、体型はそれっぽくて華奢めなんだけど顔はな…顔はまあ……うん。
小さい頃はそこそこ可愛いって言ってもらえたんだけど、成長と共に幼子特有の可愛さはなりを潜めてしまい、口の悪い周囲の女共には『微妙…。』って言われ出して、ちょっと凹んでた時期だったんだよな。
見た目が勝負なとこあるΩなのに、そんな状態だったから将来的な不安というか…こんな自分と番になってやろうなんてα、いるのか?という不安に悩んでいた頃だったから、容姿の良い奴が羨ましかったんだよ。勿論今はもうそんなコンプレックスは脱したけどな。
で、そんな時期に出会った佐々木。
佐々木ってその頃は未だ線が細くて、美少年から美青年に成長中って感じだった。
αって言われても納得しそうな美形。
相手なんか選り取りみどり。
で、そんな奴から告白とか…。
「マジって言われても…。」
何度言われてもマジと言われても、俺の答えは変わらないんだが、と思いながら、俺は佐々木の目を真っ直ぐ見返した。
そしたら、佐々木が言ったんだ。
「佐波って俺の事、嫌いだろ。」
佐波ってのは俺の旧姓だ。
結婚してから徳永になった。
で、俺はその佐々木の言葉を聞いて、少し驚いた。
勘づいてたのか、って。
俺はあまり顔に出す方ではないし、感情を隠すのも上手いつもりだったから、まさか気付かれてたなんて思わなかった。佐々木って油断出来ない奴だなって思ったよ。
でも、肯定したら…佐々木を紹介してきた友達と気不味くなるのも、嫌だなって。
人気者の佐々木と決定的に不仲って事になるのも不味いよなって打算も働いた。嫌いだなんて言えるかよ…。
だから、当たり障り無く答えるしかなかった。
「…んな事、ねえけど。」
表情はどうだったかわからない。多分、精一杯微笑んでいたかも。
「…そっか。」
「うん。」
「じゃあ俺の勘違いなのかな。ごめんな。」
「や、うん…良いけど。」
誤魔化せてはいないだろうけど、佐々木が退いてくれそうでホッとした。
けど、その後言われたんだ。
微笑みながら。
「じゃあ、二週間だけ付き合ってよ。」
って。
二週間…?
「なんで二週間?」
俺は純粋に疑問だったから、聞き返したんだ。
そしたら、佐々木は答えた。
「二週間付き合ったら、俺の事もある程度知ってもらえるだろ?」
知ったからって何か変わるんだろうか。
「知ってくれたら、佐波は俺の事を好きになると思うんだよね。」
「はぁ?」
俺は嗤った。
それはどうやら佐々木のプライドを傷つけたようで、余裕ぶった笑顔が僅かに歪んだ。
しまった、って思った時は遅かった。
俺は佐々木にビルの汚れた外壁に押し付けられて、顎を捕まれて唇まで押し付けられた。
まさか佐々木がそんな強引な事を仕掛けて来るなんて思ってなかった俺は面食らって、ろくな抵抗もできないままなすがままに唇を吸われた。
初めての他人の唇の感触だった。
呆然としたよ、まさかそんなシチュエーションで苦手な野郎とファーストキスするとか思わないじゃん。
それからが俺の人生の黒歴史の二週間の始まり。
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