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5 見慣れぬアイコン (八尋)
一週間。
番になり結婚してから、俺は琉弥とこんなに長く離れた事は無かった。
俺は琉弥を愛している。
勿論お互いの匂いで惹かれ合ったという事もあるけど、それは切欠に過ぎない。見合いから後、恋人としての付き合いを重ね、琉弥という人間の人となりを知ったからだ。
本能でも、俺という人間個人でも、琉弥を愛している。そう思っていた。
だけど、もうそれが本当にそうだったのか、わからない。
俺を愛していると、全身全霊を懸けて幸せにすると誓ってくれたあの言葉も、今となっては戯言だったとしか思えない。
強い絆で結ばれて、俺は他の誰にも余所見なんかしない自信があるのに琉弥は違った。
俺を裏切ったって平気だった。しかも週2という頻度で浮気を重ねておきながら、俺の前では全くの平然とした顔をしていたのかと思ったら、怖くなった。
俺が今迄見てきた琉弥は何だったんだ。
もう、信じる事は難しいと感じた。
「…別れるか…。」
実質それしかないかと思う。
あの2人の密会頻度や続いている年数から見ても、2人は本気なんだろうし。
佐々木は高校時代に引っ越した後、変異があった訳でもなくβのままのようだし、琉弥と番にはなれないだろうが、結婚は出来るだろう。
子供が出来ないだけだ。
俺はもう、いい。
俺はきっと、謝罪されたって琉弥のした事を忘れられないだろう。
そんな男に抱かれる事は、俺には耐え難い苦痛だし、再構築してもレスになりそうだ。
それを思えば、抑制剤と共に一人でヒートと戦う方が断然マシな気がした。
番になると分離不安症気味にになるカップルも多いようだけど、俺は意外と大丈夫そうだ。
性格的なものかもしれない。
可愛げが無いから、と 俺は自嘲した。
そう、可愛げが無いんだ、俺。
元々の性質に、高校で背負ったトラウマで、完全に他人に寄りかかる事は出来ないと思ってた。
信じ過ぎれば裏切られた時に辛くなる。
だから、番になったαはまず裏切ったりしないなんて言われても、何処かで構えていた。
でも、こういう状況になったからには、それが逆に良かったのかも。
丸一週間考えて、俺は離婚と番の解除の申し入れをする事に決めた。
愛情と信頼を裏切られてずっと辛いと悔しさと虚しさに泣き、疑い続けながら一緒にいるより、一生誰も受け入れる事が出来なくなってもぼっちになっても、そっちの方がマシだ。
そうと決まれば明日はマンションに帰ろう、と俺は思った。
この一週間、琉弥から来たLIMEには適当にスタンプとかで返信していた。極力話したくなかったから、電話は取らなかった。
基本的には俺様な琉弥はイラついてるかもしれない。
でも、帰って琉弥と話をしなきゃならない。
今更何故浮気をしたのかなんて事の言い訳など知りたくも思わないけど、琉弥に離婚を承諾させる為にはそこも含めた話し合いは不可欠だろうとも思って、気は重かった。
やっぱ俺じゃ誰かを満足させる事なんか無理だよなあ、って、佐々木と琉弥のキス写真を見て、また自嘲が漏れた。
その時だ。
見慣れないアイコンから、メッセージが届いたのは。
そしてその、空だけを写したようなアイコンを、俺は何の気無しに開いてしまったんだ。危機管理的にどーよ?って言われるかも知れないけど、知り合いや友人や仕事関係の人が、何らかの理由でスマホを替えたりする事だって無くはない訳だしな。
そんな理由でつい開いてしまった俺の目に飛び込んだ文字は、
ーー13年振りに会いたいなーー
というものだった。
誰だ、って思ったよ。でも、何だか既視感があった。
そして、続けて来た文で、確信した。
ーーそろそろ俺の存在に気づいてくれたんでしょ?ーー
確信しているかのように、当たり前のように送り付けてきた、そのメッセージ。内容。
「佐々木…。」
どんな手を使って俺の個人情報を得たんだろ、って考えた。一番可能性があるのは琉弥のスマホから盗み出したって事だろうな。
事後のシャワーの時にでも?
もしそうなら、どんだけ愛人に油断してんだ琉弥って話だ。
しかも、既読をつけてしまったからか、また直ぐにメッセージが来る。
ーー帰ってきてからずっと待ってたんだよ。早くあの男とは別れてね。
理由は作ってあげただろ?
早くひろに会いたい、あの頃のように2人きりでーー
ゾッとした。
間違いかもと願ったが、残念ながらこれは佐々木だと確信した。
佐々木が俺と2人きりになって、俺を好きにしていた時だけに呼ばれた呼び名が出てきたからだ。
俺は読み返して、不可解さに思わず震えた。
訳がわからない。
コイツは何を言っているんだ。
何度読み返しても、意味がわからない。
まさか、琉弥の番が俺だと知ったから琉弥に近づいたのか?
いや…いや、まさかそんな筈ない。
佐々木はあの時、確かに俺を捨てたんだ。
『別れよっか。』
そう言って。
抱いたから用済みになった。
だからあんな風に…。
ーー好きだよ。早く会いたい。ひろも俺を忘れられないよね。だから、早くアイツ、捨てて俺んとこ来てね。ーー
次々に届くメッセージの内容に、俺は混乱した。
琉弥が欲しくて別れさせたいんじゃないのか。
まさか目的が俺だって言うのか。
そんな、馬鹿な。
佐々木が何を考えているのか、理解出来ず、薄気味悪さに俺は身震いした。
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