1 俺と旦那と〇〇と (八尋)

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1 俺と旦那と〇〇と (八尋)

ストーカーされている。 誰に? 馬鹿旦那の愛人にだ。 俺は徳永 八尋、28歳の既婚Ω男性だ。因みに結婚(番婚)3年目。 旦那は中学の同級生だったα男性。 その時は別に親しくもなくて、高校も別だった。 俺が高卒で派遣社員で働いていた24歳の時に、親戚筋から持ち込まれた見合いで再会して直ぐに婚約、1年後には結婚した。 ぶっちゃけ家柄的には全く釣り合いは取れてないが、番婚って結構こんなケース多いから気にしなかった。 そんな俺の旦那、絶賛浮気中だ。 おかしい。 普通、番の旦那(α)って、β夫婦と違って浮気する奴少ないって聞くのに、俺の旦那はどうやらもう2年くらい浮気してるらしい。 それなのに半年くらい前にしか気づけなかった俺も大概だとは反省している。 だけど、疑うような予兆なんか無かったんだよ。 他のΩの匂いなんかしなかったし、夫婦のイトナミだって、週2だけどあったしヒートの時は勿論ガッツリ何日も。 旦那はハッキリ言えば、世間のαのイメージそのままのαだ。 見合いの時に一目見た時から偉そげだったし、付き合ってみたらやっぱり実際ちょっと強引な傲慢俺様だった。 それでもそれに見合うだけの容姿とその他諸々を兼ね備えていたし、第一俺にはしこたま優しかった。それに、とっても良い匂い。 知っての通り、俺達みたいなΩやαは、相手との相性を匂いで判別している。 より自分好みの匂いを嗅ぎ分けるのは嗅覚のようでいて実は本能だ。 惹かれる匂いである程、体の相性だって良い。 俺と旦那はまさにそんな風に惹かれ合った。 そりゃ全然ドラマチックな出会いとかではないけど、出会ってからは直ぐに付き合い出したし、恋人らしく色々したりもした。それ迄の人生、高校で苦い思いをしてからというもの、ずっと冴えない喪メガだった俺は結構満足して結婚したんだ。 Ωなのに『なんか…微妙…(笑)』と言われ続けてきた俺には、分不相応なくらいの旦那(α)捕まえたな、って色んな人に言われた。『Ωだとブスでも(ハァ?!)あんなイケメンと結婚出来るの狡い!』とか、友達や従姉妹達にも妬まれたりして。 今でも俺の前でも懲りずに旦那を誘惑する奴もいたりするけど、旦那は全く相手にしないし俺しか目に入らない、ってハッキリ態度で示す。 だから、油断してたんだよなあ~~~。 最初に気づいたのは、お節介な友人.柿本からのリークだった。 「これ、お前の旦那? それとも別人?」 という文言付きで2枚の画像を見せられたのは、旦那の琉弥の出張中。 友人の柿本に誘われて、久々に一緒に馴染みのラーメン屋に行った夜だった。 その画像に写っていたのは、男が2人 寄り添って歩いているシーンと、マンションらしき建物に入っていくシーン。 「…ウチのに似てる…かな。」 「やっぱり?やっぱそうかあ。似てるなあと思って、つい隠し撮りしたんだよな。」 「暇なのかお前は。」 俺が少し呆れてそう言うと、柿本はむっと眉を寄せた。 「暇っつか、その日待ち合わせすっぽかされて…うん、暇だった。」 「……お前は変わらないな。」 話を聞いてみると…。 その日柿本は、とあるマッチングアプリで遣り取りして意気投合した女子大生と初めて会う予定だったそうだ。しかしドタキャン。帰ろうか自棄酒しに馴染みのバーにでも行こうかと悩んでいた時、見覚えのある男が視界に入った。 柿本は何度かウチに遊びに来ていて、俺のSNSでも繋がってるから直ぐにそれが俺の旦那だと思い出した。 だが、旦那と思しき男が腰を抱いて一緒に歩いていたのは、俺ではなかった。 なのに妙に親密そうな2人。 なので、よく似た別人かもな、と思ったらしいが、それならそれで、めっちゃ似てる人いた!と俺に見せてやろうと思ったのだと。 「これ、いつの事だ?」 「えっと…先週末。」 「そうか…。」 スマホの画面いっぱいに表示された画像に、もう一度目を落とす。 少し遠いが、やはり旦那の琉弥に見えた。ヘアスタイルも、コートも鞄も。 ネクタイやスーツが見えたらもう少し確信が持てるんだが、生憎それは見えにくい。 親密そうだとはいえ、寄り添って歩いているだけで、しかもこれが琉弥本人かも断定は出来ない。 故にその時は柿本から画像を転送してもらっただけで話は終了した。 しかし柿本と別れた後、もう一度画像を開いて確認しながら、考えてみた。 (先週末だと言ってたよな…。) 琉弥は週末は何時も遅い。 ーー溜まった仕事を家には持ち込みたくない。土日を家で一緒に過ごす為に、少し無理をしてでも仕事を片付けるようにしているーー。 琉弥の仕事の事はよくわからないし、遅いと言っても日を跨ぐ事はなかったから俺は言われた言葉を信じているが、まさか嘘なのか。 画像の中の琉弥似の男は、黒いコート。確かに黒いコートは愛用している。 でも、男のコートなんて大概黒じゃないだろうか。 一緒に写っている男は、黒いコートの男より背は少し低く、横顔ながら端正な顔立ちのようなのはわかる。 だが、華奢という訳でもなく、小綺麗だが一般の成人男性という感じだ。 中性感も無いし、Ωではないように見える。 何だか何処かで見たような気もするけれど…。 何方もスーツにコートという出で立ちだし、一見した限りでは、普通に同僚や友人と見えなくもない。 腰に添えられた手さえなければ。 「…別人、かなぁ…。」 一緒に入って行ったというマンション。 普通に考えれば、どちらかが住んでいて、片方を招いただけ、なんだろうが…。 もしこの2人が友人や、もしくは恋人同士なのだとしたら、それはまあ普通の事だ。 しかしこれが本当に琉弥だとしたら、事情は変わってくる。 「ま、決定的な場面じゃ、ないし…な。」 俺はそう呟いて、脳裏に浮かんだ妙な想像を打ち消した。 琉弥ではない。きっとよく似た他人だ。そう片付けようとした。 けれど、それから3日後。 出張から帰って来た琉弥と、琉弥から見せられた出張先での写真に映り込んだ数人の人物を見て、俺は固まった。 それは今回わざわざ招かれて行ったという、出張先でのレセプションパーティーの華やかな会場内。 招待されていた客の中には、久々に会った取引先の友人や知人もいたので、せっかくだからと写真を撮ったらしい。 数人を指して、これは〇〇の誰、これは△△の誰、と教えてくれる琉弥。 俺も、じゃあこれは?と数人指した。 その中に、見覚えのある男がいた。 「これは、同行した社員だ。」 「…へえ。」 それは柿本が撮影したあの画像に、琉弥らしき男に腰を抱かれて写っていた、あの男だった。 しかも今回は正面からの姿。 そして俺は、真ん前からのその男の顔にしこたま見覚えがあった。 髪色も、髪型も、あの頃とは違うけれど…。 (…佐々木…蓮士…。) 佐々木 蓮士(ささき れんと) それは俺が高校時代、二週間だけ付き合った、最悪の記憶の名だ。
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