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義姉弟になっても、僕はショーコさんを『お姉ちゃん』とは呼びませんでした。将来ケッコンするのだからその呼び方はおかしいと思ったのです。なのに、
「コラ、未来。……なによシカト? このチビすけ」
ショーコさんは僕をいつも小さな弟扱いをし、それが面白くなくてついプイっとしてしまいます。本当はいつでもそばに行きたかったのですが。
「あんたさ、やっぱり父さんが気に入らないの? それとも私が嫌い?」
ある日、ショーコさんがそんなことを言い出しました。
「私のこと、お姉ちゃんって呼ばないし。ママを取られたとでも思ってんでしょ」
”ちがう”と言いたかったけど、理由は言えない。僕は黙り込むしかありません。
「ママのことが好きなら、ママが笑ってくれることを考えな」
そう言われて初めて自分が家族を困らせているのだと気づきました。
母を悲しませたくはないし、父の事も優しくて好きでした。なによりショーコさんを嫌いだなんて、そんな誤解はされたくはない、でもでも。
「……ま、無理か。まだチビだもんな」
──その屈辱に、胸の中に渦巻いていた巨大なジレンマが決壊して……俺は泣き出してしまった。傷ついた。
急に泣き出した僕を、ショーコさんは慌ててなだめたりお菓子を持ってきたり、とても大変そうでした。
その日以来、僕は少しだけ素直に、彼女の膝に乗ったり甘えたりする事にしました。でもやはり”お姉ちゃん”とは呼びたくなくて、結局”ショーコさん”に落ち着きます。
そんな風に月日を重ね、中学、高校と僕も順調に大人の階段をまっしぐら。幼い頃の淡い初恋はショーコさんからの下僕のような扱いに急速に萎んでいきました。
──嘘だ。
逆に「こんなんで嫁の行き手はあるのか?」と心配で仕方がありません。
──このままでいい。自分をクールに見せたがるくせに涙もろくて、口は悪いけどちょっと俺が傷ついたような顔をするとすぐにオロオロ。そんな可愛い一面は俺だけが知っていればいいことだ。
全く困ったものです。彼氏らしき男の影も一人としてちらつかず、本当にこのままで大丈夫だろうかと父や母と一緒にため息を吐く日々。
──それでいい。
”日本の法律では二十歳がオトナ。じゃあ僕が二十歳になったら告白しよう”
小学生の頃にそう決めて俺は成長した。
そしてやっと訪れた二十歳の誕生日の夜。”話がある”とショーコさんの部屋を訪ねると、彼女も待っていたように”私も未来に言いたい事がある”と……。
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