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「そんなショーコさんに、”私、結婚するから” といきなり報告された時の僕の驚き、皆さんわかりますかー?」
披露宴会場にドッと笑いが溢れた。
冒頭のぱんつの話題で、場は最初から温まっている。誰もが新婦の弟からのちょっとフザケた祝辞としか思っていない。
誰よりも、俺の斜め先の高砂でニコニコ笑っている紫陽子さんは俺の長年の気持ちになんてこれっぽっちも。
「ですが、その驚きは我が家にとってすぐに最高の喜びに変わりました」
ふざけんな、なんでそんなにニブいんだよ。
「ショーコさんのジワる良さに気付いた太郎さん、天晴、です……」
なんで隣の蝶ネクタイ野郎に可愛い顔で笑いかけてんだよ。腹に贅肉タプタプさせて、世界平和のシンボルみてぇな顔した平和タローに。ああ、それよりなにより。
「……すみません。なんだか、胸が、いっぱい、で……」
なんでそんなに、今日は綺麗なんだよ。
「こんな、キレイな紫陽子さん、……俺、見た事ないっす……」
それになんだよ、この泣かす気満々のBGM。そういや俺の後ろの壁に新郎新婦の思い出スライドショーが映ってるんだっけ。紫陽子さん自ら編集したとかなんとか。
そんな二人のラブラブ映像をバックに、こんな屈折した告白を秘かにしてる俺って……まじキモイ。
「未来ちゃん、ほら鼻拭いて」
横の夢ちゃんがティッシュを箱から高速で抜き取って渡してくれる。隣の家のよしみで彼女も招待され、俺の前に祝辞を述べたんだ。
「最後まで、ちゃんとがんばって」
「わ、……ってる、よ……」
夢ちゃんはもしかして俺の気持ちを知ってるのかな。付き合い長いしな……。
「ねえ。後ろ、見てごらんよ」
夢ちゃんが俺の肩をクイと押して、振り返らせる。そこには壁一杯に映し出される写真たち。
それは制服姿の紫陽子さんと……半パン姿の小さな俺。
「は……?」
スライドショーは俺と紫陽子さんの写真ばかりが流れていく。
ケーキのイチゴを紫陽子さんに取られて泣いてるチビの俺、羽交い絞めにされて白目をむいてる中学生くらいの俺。
「未来ちゃんとの写真ばっかだよ、さっきからずっと」
俺、おれ、オレ。壁一面に俺ばかり。
そして最後の写真の上に、嫁ぐ彼女からのメッセージが浮かび上がる。
~ありがとう、家族。ありがとう、未来~
「……っ……!」
ティッシュなんかじゃ足りねえ、涙と鼻水が壊れた水道みたいに止まらない。
それでも俺は伝えなきゃいけない。大好きだったこと、今も大好きだってこと。
(そっか……好きなら、その子が笑ってくれることを考えるんだったな……)
だから、今日から俺は。
「マジで、……太郎ざん、姉ちゃんを宜じぐ……」
俺は、今日から彼女を姉ちゃんと呼ぼう。
「幸ぜに……なっ……で、ぐださい!!」
拍手喝采の披露宴会場。
涙でぶよぶよになった視界の中で、姉ちゃんがやっぱりぐちゃぐちゃに泣いていた。
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