閉ざした想い

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「覚えてたんだ。忘れられてるのかと思った」 彼は、少し安堵したようにそう言った。 私は、ハンカチは家に置いてあると嘘を言って、その翌日、実に4ヶ月ぶりに持ち主に返すことに成功した。 それから、少しずつ彼とも話すようになった。 ふとした時に、好きな漫画とか、好きなお菓子とか、部活が大変だとか、英語のテストがやばいとか、話しているうちにカッコよかった志水くんが、いつの間にかかわいいヒロくんに変わっていった。 くしゃっと笑うとできるえくぼや、照れた時に視線をそらす仕草、笑うと高くなる声が愛おしかった。 背の高い彼が、背中を丸めて同じ目線で話してくれる姿に胸が締め付けられた。 「あや」 彼にそう呼ばれる度、自分の名前が世界一素敵な名前のように感じた。 彼のやわらかな猫っ毛や、大きな背中、私より二回りくらい大きな手にいつか触れてみたいと思うようになった。
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