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籠の中
「あの奇妙な鳥籠の由来なら、遊廓で聞いた所、こちらの和尚様の方が詳しいと伺ったので、お寺ではなんですので…一席設けさせてもらいました。」
吉原で扇屋を営むと言う男の案内で、料亭八百膳の暖簾をくぐった。凝った座敷の先に件の男、山東京伝が舞台を用意していた。
「ほう、これはまた…実物よりずいぶん小さくなさいましたな?実物はカラスが入る位は有りましたよ。もっとも作って居る内にそうなったらしいのでしょうがね?」
鳥籠?と言うよりも…竹を極限迄細く削って作った手鞠?のような物が幾つも転がっていた。
「まあ、一点物だと教えられたんで…職人と様々試作をしていた所何です…が何せ実物を見た事が有りませんので…。小さくして飾り籠と洒落るのもよし…。戒めとして飾っておくもよしなんてとこでしょうね?」
中身を知って居て…京伝は和尚の噺を聞きたいらしい…
「戒めね…解釈はそれぞれと申す。私の知っている話では本当に鳥籠だったのだが?持ち主は恐ろしい声を聞いて、本来の話を閉じ込めてしまったのでしょうね?実際に見た訳ではないから、何処まで本当かは、知らないが、役者馬鹿が揃って、見た事の無い鳥を捕まえる練習をしていた所を、寺小姓が嘲笑って居たとか?それを当時の成田屋が見て居たのだそうです。実物は、未完成のまま、職人の方は亡くなりましてね?完成した形を誰も知らないのです。」
何代前かは知らないが、和尚が当時と言うのも頷ける。醜聞がある事自体を隠したかったのだろう…小さな細工物とはいえ、それは一見すれば立派な完成品となって転がっている。
「どうも成田屋さんの方は、納得しないまま話を切られたらしい…何て噂が有りましてね?だから未完成の細工物と?どんな繋がりがあるのか?元を知りたい何て戯作者としては思ったんです。」
合戦場なら、正面突破と言うつもりだろうか?ただ戯作者としての興味だけだと言われて、和尚は、元々の噺を、やっと話す気になった様子ではある。
「元々は、他愛ない意地の張り合いからでしたが、噺を和尚様は恐ろしい方向に転がしてしまったと私は思っていたんです。完成しないと言ったのは、本人が竹を削ったまま亡くなってしまったんですよ。河原者の地位等、決して高い者ではありませんでしたし…丁度その時、私は町奉行の取り調べの最中でしたので、和尚様側の話を聞く事は出来ませんから、真相ははっきりしないと申しておきましょう…。それでもよろしゅうございましたなら、お話をさせて頂きます。未完成のままだと言ったのは、竹を手にしたまま亡くなって居たから何ですよ。私が聞いたのはその様なお話でした。」
鳥籠を巡る因縁話を京伝は聞く事となる。昔も今も、歌舞伎役者の地位等、決して高くは無い…ましてや売れる前の役者など、奈落の底の底の様な存在なのである。
「何時の成田屋さんの話かは知りませんが、成田屋を語った不届き者が居たのだと、しておきましょう…。私が寺に入るきっかけもその偽物の成田屋からです。どうも和尚様と成田屋さんに奇妙な縁があったようでした。」
記憶を探って和尚が、話始めたのは、貰い火で焼失した所に何故か成田屋が居たからだった。
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