序章

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序章

ええ、確かに恐ろしい話ではございませんでした。子供同士の呑気な遊びを、恐ろしい眼差しで見ている大人の存在など、誰も気にして居ませんからね…孤児達の間じゃちょっとした噂になっては居ましたけど?だから、私達はその隠居所を避けて居たのです。 「その役人が例のお人だったとか?」 たまらず京伝がつつくが、僧侶は穏やかに笑ったまま。 「お役人が例のお人なら…何故成田屋さんは男から、役人を守る形になったのでしょう?同じような繰り返しが起きていただけですよ。歌舞伎と言うのは、おかしな世界でございますね?男は守って貰うつもりで、成田屋に近付いたのでしょうけど?成田屋さんは歌舞伎本来を守らなくてはならない立場ですよね?あの男はそれをわきまえず、恐喝の材料にしていました。役者ですらなかったのでしょう?舞台は商家の隠居所、世間体を気にして隠居所に押し込めた形となっていたと聞いて居ます。成田屋さんは焼け跡に何か探しに来たんですよ…。物書きなら何と応えますかね?その当時の私は、まだ逃げ回る浮浪児の一人でその検討すらつきませんでした。何せどうやったら飯にありつけるか?空きっ腹を抱えてその事ばかり考えてましたから…。何時?誰の贔屓だったやら?知れたものではありません…。役人はなんとも言えない顔をして、焼け落ちた隠居所を見ていたと聞いています。どうやら、此処に誰が居たか何となく知って居る?そんな感じだったそうです。私が聞いた話ではそうなんでございますよ。」 そう言うと僧侶は…ゆっくりと京伝に酒を注いだ。何もかも同じと言う訳では、無いようだが?何処からか風でも吹いたのだろう、細工物の一つがコロコロ転がり、中の鈴がチリリンと鳴った。 初めて京伝は鈴が閉じ込めてあった事に気づいた。 「おや、ずいぶんと可愛らしい音ではありませんか?こんな音なら、何も死ぬ事はなかったのに…。役人はずいぶんな事をした男を捕まえに来ただけで、一足遅かったと嘆いて居ました。これは同じでは、なかった筈です。貴方はその先の話を知りたいので?私が知っているその先は、貴方と同じかどうか?保証は有りませんがよろしいでしょうか?」 僧侶の眼差しが挑むようなものに変化したのは、何故だろうか?
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