四.卒業

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手を振る母と別れ、 本来なら次の駅は あの桜のトンネルを(くぐ)る吉住駅。 なのだが……、流れたアナウンスは『立ち止まり駅』だと、言いやがった。 何考えてんだか、父さんは。 そう思っていた途端、目の前に開けた桜のトンネル。 その中に列車が吸い込まれていく。 一瞬時が止まる。 列車は走る。 そこには、車窓一面に淡いピンクのカーテン。 私はこらえきれなくなった。 あぁ、分かった。 何か悩みがあるたびに、 私がこの駅に立ち寄るのを父は知っていたのか。 特にこの桜吹雪が舞い散るこの駅は、 自分の心をありのままにさらけだせる。 町を出ようと一人立ち止まって考えたのも、 この吉住駅のホームだった。 その駅のホームに列車が桜と共に舞い込む。 父と一緒に駆け抜けた 私の十八年間の沿線。 静かに吉住駅を後にし 列車は私の町に刻一刻と近づく。 鳴りやんだと思っていたアナウンス。 その時だった。 再び、車内に聞こえてきた 今度は震える父の声。 「もうすぐ終点の南木(なみき)駅です。通称、始まりの駅です。」 __えっ? 「人生もこの沿線のレールと一緒でございます。 迷って、寄り道して、そして立ち止まって。 でも、又そこから走り出す。 この先の人生いろんなことがあると思うけど、 一歩ずつ自分のレールを見つけてこれからも 歩いて行ってください。 茜、卒業おめでとう。」 父は最後の最後まで公私混同で列車を利用した。 でもそのアナウンスが終了した時、 なぜだがわからないが、 私の頬を一筋の涙がつたっていた。
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